
The Irishman
★★★★
2019年/209分 #マーティンスコセッシ
75年米国で未解決のホッファ失踪事件が題材。ホッファの親友フランクシーランが殺人を意味する「ホッファの家にペンキを塗った」事実を語る。ジミーホッファは労働組合指導者として絶大な人気を誇った人物で劇中ではビートルズ並みの人気と評される神的存在。原作はチャールズブラント「I Heard You Paint Houses」
監督の話。監督の出自はリトルイタリーでギャングと教会に絶対服従の世界。その中で育った彼はギャングの代名詞となる名優を揃えギャングとケネディ一家との繋がり等も絡めた社会的背景も含めて、ありのままの現代を描いた。回想は時代の終焉を告げる彼なりのワンスアポンアタイムものと捉えられる。
分類の話。ジャンルはギャングというよりコメディ。登場の度に日付入りで死亡記事を紹介する人物像は皮肉が効いている。ジミーとトニーの喧嘩はイタ公や遅刻が題材と低レベル。組合の連帯は労働者の人権保護から逸脱し、既得権益を貪り特権を享受するだけで馴れ合いまみれの醜態を晒す。最終勧告ではジミーがシーランに「あり得ない」を連発、状況を全く認識しない愚行を披露する。
技術の話。主演3名の世代別容姿は見所。ILMのCGを駆使して俳優を若返らせるディエイジングの技術は特筆に値する。技術革新は止まらない。
信仰の話。シーランは戦争により狂気に順応し悪漢との交流により家族を捨てた。遂には殺人という一線を越え信仰心も捨てる。挙句の果てに人生の恩人をも殺め真実を封印、そこから生涯の隠蔽工作が始まる。そして人生の終焉を察知する事で信仰心を取り戻し懺悔、神の赦しを請う。彼は語る「俺の仕業だとされていることを実際全てしていたとして同じ事をもう一度しろと言われても俺はしない」
開放の話。シーランは扉を僅かに開放する。冒頭ではホッファに、終盤では神父に依頼。僅かは心の度合い、冒頭の開放は信頼、終盤は安堵を示唆する。彼は自分でアイルランド色の棺桶や墓地の予約、神父の祈り斉唱等、民族や信仰に傾倒し終活に臨む孤独な男。気が付けば友人は全て他界し娘達からは一定の距離を置かれている。彼の暴力性により苦しめた娘達への悔恨を感じつつも娘が扉から入る期待も含んでいる。娘ペギーの目線は冷ややかで、そこに赦しはない。
幕引の話。ホッファは親友から引導を渡され召天し、シーランは自分で引退を決意し信仰に帰依する。人生には様々な幕引があれど何れも最期は哀しく切ない。終幕は彼が遠景で捉えられ次第に小さな存在となる。
4スジ5ヌケ4ドウサ5テイジ4コノミ