スノーロワイヤル

Cold Pursuit

★★★
2019年/118分 #ハンスペテルモランド

除雪作業員のネルソンコックスマンは表彰される程の模範的市民。ある日、息子が殺害され警察から死因を麻薬過剰摂取と告知される。合点が行かない父は真相究明の末に息子の復習劇に乗り出す。主題はOワイルドの言葉「ある者はどこに行っても人を幸せにする。ある者は去る事で人を幸せにする」。本作は「ファイティングダディ怒りの除雪車」のハリウッド版セルフリメイク。

悲喜の話。本作は悲喜劇の境界線を曖昧にし観客に解釈を問いかける。ネルスの誘拐した子供への除雪車カタログ読み聞かせ、麻薬王のモーテル100泊と果物コカイン育ち、ギャングの清掃員軟派指南、兄が殺害したい理由は恋人横取り、これらは本人には普通でも他人から見れば滑稽な喜劇。ギャングの15分間隔の殺害、殺害の度に十字架・生没年・愛称を表示して追悼、これらは本人悲劇で他人滑稽の喜劇。ネルスが息子の死でショットガンの自殺未遂、連日正義の鉄槌も妻が家出、これらは本人悲劇で他人悲劇の悲劇。人の主観は共通しない。

強者の話。ネルスは容赦しない。犯人を突き止めれば兎に角、殴打する。実行犯はエレベーターで血潮が飛ぶ迄。翌日、指示者は勤務先のブティックで血煙が吹く迄。翌々日、運び屋は雪上で血反吐を吐く迄。疲れ果てても馬鹿にされれば懐のショットガンを取り出す。麻薬は野に撒き散らし、車は除雪車で吹飛ばす無敵の猛者ぶりを発揮する。

処理の話。ネルスは全遺体を手続きの様に金網で巻き川へ投入する。これは遺体の膨張を防ぎ魚の餌として証拠隠滅を図る為の策だが、この知識は推理小説の引用というオマケ付き。

確執の話。麻薬王ヴァイキングは先住民ホワイトブルの息子を拷問し射殺。父が友好の証でブルから貰ったペンダントを死骸の首に掛け道路標識に括り見せしめとする。先代はブルと手を組み居住区に麻薬を流しビジネスを拡大した。息子は勝手に課税したブルへの報復機会を伺っていた。世代交代は歴史を変える。

賢女の話。ネルスの妻、麻薬王の前妻、元彼に言い寄られる警察官、3人は沈着且つ聡明なる女性。彼女達は男達の行動から距離を置くことで混乱した事態を上手に操作していく。監督はフェミニズムの精神を以て「彼女達は男達に賢すぎる」と語った。

流行の話。模範作業員の暴挙、先住民のギャング、東洋人の嫂、ゲイの組織幹部、健康志向の麻薬王、虐待被害に苦しむ麻薬王の息子、殺人事件で歓喜する田舎警官。これらは最近の潮流である多様性を反映する。本作でリーアムは実子マイケルリチャードソンと初共演を果たす。

無言の話。ネルスは逃走を図る麻薬王を重機で切断した樹木で車上から串刺し、動けない彼をブルが射殺する。日没後、彼が出社途中の車にブルが乗り込み銃を突きつけるが、彼は淡々と作業を進める。ブルは静かにダッシュボードに銃を置き、除雪車は静かに暗闇を進む。深遠なる終焉。

3スジ4ヌケ3ドウサ4テイジ3コノミ

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