
The Old Man & the Gun
★★★★
2018年/93分 #デヴィッドロウリー
主題は全てを現す行員談話「何だか楽しそう」。見所は世界一爽やかな老人。監督は原作者と主演男優の人生を重複させて物語を紡いだ。原作は「老人と銃」。舞台を海から銃、獲物を鮪から金に変えて異端児と呼ばれた英雄を炙り出す。「スティング」から指合図、「逃亡地帯」から脱走法を転用し、冒頭句「この映画はほとんど実話である」は「明日に向って撃て」から引用している。
史実の話。フォレストタッカーは実在の人物。彼は16歳の時に自動車窃盗で逮捕され83歳で他界する迄、銀行強盗を60回以上繰り返した。被害総額は4億円以上、脱獄は30回で成功率60%、劇中のサンクエンティン刑務所からの自作舟での脱獄等、彼は70年代に世間を驚愕させた。愛情にも恵まれ結婚3回、実際のタッカーは二枚目ではなく普通の男で二人が出逢った場所もマイアミビーチ。晩年は老人ホームに住みながら時々強盗するという道楽的楽しみ方で人生を全う、死因は脳梗塞。ジュエルの手で墓は建立され05年に彼を追う様に彼女も他界した。享年83歳。
人柄の話。ポケットの拳銃を見せ笑顔だけで目的を達成する74歳の銀行強盗。被害者迄もが紳士だったと語る好感度でその手口は周囲の者すら気付かない手際の良さ。ジュエルとの馴れ初めはまるで青春期並みの初々しさを感じさせる。観客も動悸を早める程に相手を思い遣り距離感を次第に詰めていく。彼は魅力的だ。
阿吽の話。タッカーは拳銃は携帯するが人を撃った事は無く、誰一人傷つけず犯行に及ぶ男。銀行員たちから紳士と呼ばれ、マスコミからも黄昏ギャングとの愛称を拝命される。ジョンハント刑事も彼を知れば知る程、その人格に心を惹かれる自分に戸惑いを隠せない。二人は捜査や報道を通して互いの礼儀正しく丁寧な仕事ぶりを知り、徐々に相手に対して畏敬の念を懐いていく。彼はジュエルとの食事中にジョンを発見、トイレで挨拶をして彼のネクタイを締め直す。ジョンは名乗ってもいない彼を名前で呼び止める。そこには二人だけの時間が流れている。
生様の話。出所後、タッカーは足を洗いジュエルと幸せな暮らしを夢想するが、ジュエルが寝た隙を見計らい家を出て銀行強盗を再開する。彼にとって強盗は人生の一部、自分の思う様に生きたと同時にその生き方しか選べなかった男の哀歌は美しくも切ない「ドアが閉まった時どうすると思う?窓を飛び越えるんだよ」。楽しむ為には悩まず小さい頃にした事を考えようと彼ではなく”彼等”が教えてくれる。
4スジ3ヌケ5ドウサ4テイジ4コノミ