
東京家族
★★★
2013年/146分 #山田洋次
主題は周吉が呟く「とうとう宿無しになってしもうたな」。見所は夫婦がホテル前の観覧車で若かりし頃に行った「第三の男」を懐かしむ場面。原本は小津安二郎「東京物語」。故郷は尾道から上島町、保養は熱海の旅館から横浜のホテルに変化している。キャッチコピーは「おかしくて悲しいこれはあなたの物語です」。当初の配役は夫婦が菅原文太と市原悦子で長女が室井滋。
格差の話。平山周造、とみこ夫婦の上京を長男幸一と長女滋子、次男昌次がお出迎え。都会と田舎、開業医や美容師等の勝ち組と舞台美術家やサラリーマンという負け組。原本比較で庶民の暮らしは社会や場所、時代が作ったズレとして新たな問題を生んでいる。
現実の話。とみこが孫の冷めた未来に呟く「こげに小さい内に諦めてしもうて」。昌二は「5年先なんて分からないよこの国は」と現代批判、怠惰を指摘する父に対して「楽をさせて生きさせてくれるかよ」とも返答する。長男長女は両親の為にホテルを手配するが本心は厄介払い、夫婦は居心地の悪さから早々に退去するが子供達からは迷惑がられ途方に暮れる。
社会の話。ホテル清掃員は夫婦の整頓された部屋を見て若者の悪しきマナーを批判する。周吉は先立たれた同級生の仏前で故人の母親が陸前高田で波に浚われ、その夫が海上で戦死した事実を知る。悠久の時を越えて海中で結ばれる夫婦の逸話は家族の繋がりの重要性を暗喩する。
時代の話。昌次と紀子は震災ボランティアで知り合い、出会って3回目にプロポーズした。即答しなくとも良いと言う彼に彼女は今すぐ答えると言い小指を差し出す。話を聞いた母は「幸せじゃったろ」と笑顔になり彼女に小指を差し出す。昌次が母に父との結婚理由を尋ねる。母は「ええ男じゃったんよ」とだけ答える。お見合い結婚した両親世代と恋愛結婚しようとしている息子世代には明らかなる時代の違いが反映されている。
別離の話。とみこが倒れた。朝迄持たない事実を知り家族は愕然とするが母は明け方他界する。滋子は「人間なんてあっけないもんね」語り、そそくさと葬式準備を始める。周吉は朝日を見つめ「母さん死んだぞ」と洩らす。その瞬間に昌次の中で喪失の悲しみが実感として溢れ出す。
価値の話。葬式が済んで残された周吉の気持ちを他所に、滋子は形見分けの話をし始めるが昌次が怒りを露にしてそれを嗜める。長男は父に東京で一緒に住む事を提案するが父は「東京には二度と行かん」と頑なに拒否する。兄弟が撤収した後も昌次と紀子は片付けの為に残る。周吉が紀子を呼び止め、とみこが30年間身につけていた時計を渡す。周吉は昌次を「あの子は優しさが値打ち」と評し、紀子に「宜しくお願いします」と深々と頭を垂れる。人間の価値とは何かを我々に問いかける。
3スジ4ヌケ3ドウサ3テイジ4コノミ