大脱走

The Great Escape

★★★★★
1963年/172分 #ジョンスタージェス

主題は先任将校の弁「脱走は全将兵の義務だ」。本作は脱走に挑み続けた者達への讃歌である。見所はエンドクレジット。製造屋コバーン、偽造屋プレゼンス、トンネル王ブロンソン、ビッグXアッテンボロー、調達屋ガーナー、独房王マックィーンの豪華布陣、逆順での重要人物紹介は圧巻の終幕。原作はポールブリックヒル「大脱走」。独軍の捕虜となった作者がルフト第三捕虜収容所時代の体験談を詳細に記述した。

史実の話。本作は舞台設定も含めて史実を忠実に再現、独ババリオスタジオでの追加撮影は現代では成立し得ない大規模設営が敢行された。トンネルは入口部で区分される。劇中名称でトムはストーブ下、ハリーは排水口、ディックは不明も、実際にはハリーがストーブ下、ディックが排水口、トムが煙突付近の床で、偽装の混凝土が薄い為に独軍兵の検査棒により貫通し脱獄が発覚した。Rバーンスタイン「大脱走マーチ」は一度聞けば忘れられない旋律で各場面を劇的に盛り上げる。題名は3回変更、「大いなる逃走」から「偉大なる脱走」を経て「大脱走」に決定した。

役割の話。彼等の脱走に賭ける発想は桁外れ。X計画の逃亡者数は250名、捕虜達は収容所到着後に脱走即決行等、全てが想定外の規模。また彼等は脱走に当たり芝居の脚本と役割を持ち、楽しみながら興じる。設定は露軍捕虜成済ましから夫婦喧嘩に盗難言い掛かりと多様性に富んでいる。

戦士の話。脱獄のプロ達は連合軍側の精鋭パイロット、集結した彼等と独軍との攻防は見所満載。彼等に手を焼いた独軍が脱走不可能の命を受け、特設した収容所の攻防。捕虜達は脱走自体が彼等なりの戦い、前線の自軍を有利に導く為に独軍撹乱が至上命令。その為、脱走決行日もノルマンディー上陸日を敢えて選択している。また彼等は独房入りも本望、不敵な笑みを浮かべて誇りを胸に入居する。捕虜の中には自由を渇望する余り、失敗で錯乱する者も現れるが、それが劇的な展開を生む。但し大多数の者は諦めない誇り高き戦士、冒頭の収容所長による経歴読み上げがそれを物語る。

王様の話。脱獄王ヒルツの壁当てキャッチボールが脱走18回の実績と不屈の闘志を暗喩する。マックィーンの為に用意された3mのフェンス越えと有刺鉄線への激突は戦争映画たる本作の爆破場面に相当、爽快ながらも刹那的な名場面となっている。また彼のバイクへの拘りと掛ける想いは熱狂的で、追従する独軍兵は彼自身が吹き替えたという逸話付き。

祝祭の話。脱走トンネル完成間近の前夜祭も兼ねた独立記念日の祝賀行進が皮肉にもトム発見に繋がり作戦失敗の危機を匂わせる。しかしこれが彼等の結束を生み士気を高める結果となる。振舞酒は自家製の芋焼酎、3人の味見による「ワォ」三連発は監督拘りの場面で三者三様の個性が際立ち、楽しい雰囲気を醸し出している。

目的の話。注目すべきは脱走に成功した者達、脱走者76名中、成功者3名。本作では彼等の達成感や祝福は感じられず淡々と記録する様に描かれる。これは脱獄が目的でない事を明示する。脱走計画に際して捕虜の一人が「やる価値があったんだろうか」と尋ね、先任将校が「考え方次第だ」と答える。本作戦では50名の犠牲者が生まれ、独軍兵は脱走の捜索で7万人投入された。目的が脱走ならば失敗だが、撹乱であれば成功となる。大事なのは各人が因習の身ながら漫然とした生活を送らず、意思を持って脱走を選択した点にある。

充足の話。本作は登場人物の一人一人が個性と見せ場を確立しており群像劇として傑出している。脱走手段は列車、自転車、船、飛行機、バイクと多彩でゲシュタポ包囲網の中での逃亡劇は緊張感が持続する。作戦の直前失敗の他にもトンネル王は閉所恐怖症が発症、偽造屋は直前に失明、脱出口は6m短い事件等、予想外の事態が彼等を苦しめ、終焉ではゲシュタポによるトラック内50名に銃が乱射される。多大な犠牲者を生んだ凄惨な事実も不思議と暗部は感じられない。彼等の不屈の姿勢は尊く、我々は充足感と爽快感に満たされる。

5スジ5ヌケ5ドウサ3テイジ5コノミ

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