
The Ballad of Buster Scruggs
★★★★
2018年/133分 #ジョエルコーエン #イーサンコーエン
主題はアリスとビリーの交わす言葉、マタイによる福音書7章14節「命に至る門は狭くその道は細い」。天国への救いの道にたどり着ける者は少ないの意。見所は老婦人興奮からの発作後のやり取り。愛蘭土人が歌唱し慰めるが走り始めた馬車は止まらない。原本はオリジナル。当初はTVドラマ企画。
主題の話。冒頭の本が全体の一貫性を整える。表紙は枯木と動物の頭蓋骨、共に米国開拓史の中での死者達の象徴。挿絵は夕陽の中、墓場前で佇むカウボーイ、西部劇時代が滅びる落日の象徴。表紙と挿絵に共通する死生が重要な点、全て不条理な話、開拓時代を力強く生きた者達に捧げる物語。
バスターのバラードの話。「手を見たならそれでやれと鼻であしらった」の章。バスタースクラッグスは白馬ダンに跨がり白服で決め美声を披露する陽気な無法者、バーで口論になれば全員射殺する非情さを併せ持つ。ポーカーでジョーから脅されテーブル利用の奇策で撃退する。しかし流れ者から決闘を申し込まれ油断、射殺される。彼は天使となって舞い上がり呟く「永遠には勝ち抜けない」。亡霊と流れ者は二重唱で街を去る。バスターは観客に向かって語りかける超越的な英雄であり最悪の殺し屋。カウボーイの存在自体が不条理。
アルゴドネス付近の話。「ヘタクソと老人は叫んだ」の章。カウボーイが銀行強盗に入ると老人行員からの反撃に会い失神、目覚めると絞首刑直前。そこにコマンチ族が襲来、偶然通り掛かった家畜商に救出されるが別の保安官により彼は家畜泥棒として逮捕され絞死台に昇る。死の直前、目の前には美人、遺言は「別嬪がいるな」。絞首刑は、有罪の強盗では受けず無罪の泥棒で受け、死の直前も美人が気になる。何れも不条理。
食事券の話。「慈悲は強いられる事なく優しい雨となって天から降り注ぐ」の章。老興行師と四肢欠損のハリソンは旅芸人。彼はオジマンディアス、聖書カインとアベルの物語、ゲティスバーグ演説等を暗唱披露する。次第にお捻りは減り興行師は別興行師から計算鶏を購入、彼を真冬の川底に沈める。興行師は人間性を象徴する青年の世話を生活が苦しくなると酒に溺れ売春宿に通い放棄する。オジマンディアスは盛者必衰、カインとアベルは死を暗喩する。彼はハリソンと同時に自身の人間性も殺した。冒頭の尊敬される彼が豹変する不条理。
金の谷の話。「大地の何処にも人の気配や細工は見当たらなかった」の章。老山師は山奥で砂金採取の日々。ある日、遂に金脈を掘り当てるが直後、若者に背後から撃たれる。銃弾は急所を反れた為、死んだふりをして若者を返り討ち、埋葬して山を離れる。山師の採掘後は美しい大自然が甦るが目印旗が残される。人間の欲望が醜怪な残骸に変わる。
早とちりの娘の話。「アーサーはビリーナップに合わせる顔がなかった」の章。アリスロングボウと兄は新天地を求めキャラバン隊に参加するが旅の最中で兄が急死。雇用人が法外な報酬を催促し彼女は護衛のビリーに助けを求める。2人は次第に惹かれ始め遂に婚約。彼女が愛犬と遊んでいるとネイティヴアメリカン襲来。同行したアーサーは彼女に銃を渡し自分が死んだら慰み者となる前に自害する様、指示。彼は潜伏者に殴られ落馬、止めを差される寸前に逆襲し難を逃れる。しかし彼女は早とちり、彼の目前には額に弾痕の彼女が佇む。ビリーはベテランのアーサーとチームを組むがアーサーの能力は衰えを隠せない。終幕のアーサー勝利は西部劇最期の栄光を示すが結婚を控えたアリス自身が自殺してしまう不条理。
遺骸の話。「聞こえなかったのか御者は減速しなかった」の章。馬車に老婦人、猟師、仏人、愛蘭土人、英国人が乗車。愛蘭土人と英国人はチームで死体を車上に積載している。猟師はネイティブアメリカンとの同棲から主張「人間は根本的に皆同じ」。老婦人は3年別居の夫と再会から反駁「人間は真人間と罪人に分かれる」。仏人は真っ向否定「人間は各々違う存在」。チームの2人は賞金稼ぎで一人が気を引き一人が仕留める手口を暴露。そして馬車はホテルに到着、チームは死体を運搬し3人は動揺を抑え扉の奥に消える。冒頭、外は夕暮時も到着時は日没、西部劇やカウボーイは黄昏時も過去の物。
4スジ4ヌケ4ドウサ4テイジ4コノミ