
Marriage Story
★★★★
2019年/136分 #ノアバームバック
主題は冒頭に交わすチャーリーとニコールがお互いの良い所を綴る手紙「僕がニコールの好きな所」と「私がチャーリーの好きな所」。見所は二人の次第に激化する拳闘試合さながらの舌戦。原本はオリジナル。ノラのモデルはヨハンソンとダーンの離婚裁判を担当した実在の弁護士を参考にした逸話あり。
制度の話。州による弁護士資格や居住地と裁判地の違いによる転居の必要性、相手が相談した弁護士には依頼ができないシステム等、米国の法制度には新たな学び。 本作の離婚理由が愛していないからではなく愛があっても別れを決意する点。当初は円満な離婚を望む二人が制度に巻き込まれ事で混迷を極めていく。
愛情の話。弁護士や調査員は夫婦に対しては全てが他人事。ランチの注文では当事者が意気消沈する中、弁護士達は上機嫌で楽しみながら注文する。泥酔した妻を夫が介護する美談や夫が妻に受賞を感謝する言葉「君と一緒に取った賞」等が其々本意とは異なる意味として独り歩きを見せ始める展開は違和感を隠せない。調査員が父子の食卓を訪れる時の噛み合わない会話は人間そのものを否定する。愛情は非論理的なもので理屈や論理で語る事は出来ない。
演劇の話。本作は舞台演劇が背景となる。二人はNYとLAで役者として、弁護士が監督として戦略を練る。HWの仮装は衣装を巡る戦い、夫のLA宅の家具調達は小道具を巡る戦いである。本来チャーリーは監督でニコールは役者、離婚でも彼は全て自分で用意するが、彼女はノーラを監督に据え演技指導を受けながら進む。主演となるヘンリーの取り合いは彼女に軍配が挙がり、新たに監督として活躍を開始する。終幕は彼女が認めた手紙の台詞を父子が読み合わせ。ここに夫婦関係の変化が見て取れる。
女性の話。ニコールは女優で活躍しつつ夫の劇団に縛られる生活に不満を抱いている。彼女は与えられた場所ではなく自らで開拓した場所での活躍を望んでいる。自立は自身の価値証明、女性の台頭は子供や仕事、拠点等の様々な問題を提起するが我々への問いは新しい家族の形の模索。女性が活躍出来る社会実現の為に柔軟な思考が必要てある。
試合の話。夫婦は夫の引越し直後、生活感が皆無のアパートで舌戦を繰り広げる。部屋は感情の空虚化や二人の再出発を暗喩する。両者は舌戦前に「話し合えると思うんだ」。「ええ話しましょう」。という言葉を交わし感情をリセットする。試合は開始直後から言葉の暴力が炸裂、感情の殴り合いは次第にエスカレートし最終ラウンドで彼が心無い暴言を吐き彼女が泣き崩れゴング。しかしそこに勝者はいない。
画角の話。1.66対1の画面は背景を遮断し対話劇を強調、二人だけの封鎖的世界や離婚で狭小化する視野を提示する。また3対2の比率はスナップを綴じ込んだ家族のアルバムを連想させる。どこまでも続く道は閉塞的な離婚調停が終わり各々の気持ちを自覚し本当に大切なものを考えながら可能性を切り開く夫婦と息子の未来を暗示する。
言葉の話。言葉では伝わらない想い。良き理解者である夫と妻は言葉を連ねる。相手に対して時には冷静に、時には感情的に。必死に意思を伝えようとするが一向に伝わらない歯痒さが、口論後に見せるやり場のない歩行や声に出せない嗚咽に変わる。売言葉に買言葉を続け思わぬ事を口にして相手を傷つける。
空虚の話。感情は議論の妨げとなる。第三者の介入ひより混乱は収束する筈だが物語は意外な展開を見せる。妻は弁護士を依頼する事で夫に圧力を掛け、夫も自分なりの抵抗も万策尽き果て弁護士で対抗する。全ての発言が真意とは異なる意味を持ち相手の足の引っ張り合いが始まる。勝利や要求を獲得する為だけの戦いは哀しく空しい。
調停の話。二人は自分たちの感情に向き合い離婚調停後に新たな関係を構築する。離婚は婚姻という法的手続きの終了だけで家族や愛情は続いていく。調停は離婚をさせる為のものではなく離婚後の未来を考える作業、妻が夫のほどけた靴紐を結んであげる。夫婦ではなくなったが二人のお互いに対する愛情は変わらない。
4スジ4ヌケ5ドウサ4テイジ4コノミ