
Kingdom of Heaven
★★★
2005年/194分 #リドリースコット
主演はバリアン#オーランドブルーム、シビラ#エヴァグリーン、ゴッドフリー#リーアムニーソン、レーモン#ジェレミーアイアンズ、ボードゥアン#エドワードノートン。
主題はバリアン発言「大きな善の前の小さな悪」。避けるべき戦争も自由獲得の前では聖戦、平和と善行の両立は難しい。
見所はイベリンがサラディンに問い掛ける場面。「エルサレムの価値とは」「無だ、だが全てだ」。 原本はオリジナル。宗教や歴史の異なる民族が一つの聖地を廻り血で血を洗う争いを繰り広げる。
再現の話。本作は3万人のエキストラを配してCG技術と当時の装備や衣装を揃え舞台となる城壁を再現した。脚本は史実を下に脚色、バリアンを筆頭にボードワンやサラディン等、実在の人物考証を実現した。エルサレムの籠城や防衛戦も資料に基づき再現された。Eノートンが王を演じたが本人希望によりクレジットされていない。
史実の話。主人公バリアンはエルサレム王国でイベリン家初代当主バリサンディブランの三男。結婚はシビラではなく先代国王アモーリーの未亡人マリアコムネナ。実はシビラはバリアンの兄ポードゥアンと恋仲で母の反対でギーと結婚。父ゴッドフリーは劇的効果を狙い創造された。ティベリウス卿はレイモン3世がモデル、監督の次回作との混同を避ける為に呼称変更された。国王ボードゥアン4世は病気の進行で乗馬は出来ず輿から指揮、仮面は創作された。本作で彼の死後はギードリュジニャンが即位したが実際は彼とギーの間にシビーユと前夫グリエルモの子で4世の甥5世が即位、1年ほどで病死した。
真実の話。イベリンは一介の鍛冶屋、父の訪問により自分が騎士の血筋である事実を知る。彼は敵対するムスリム軍から故郷エルサレムを守るべく籠城し聖戦を繰り広げる。クリスチャン対ムスリムの図式は国により偏好も本作は対等に描かれる。ムスリム軍に悪者不在である点が歴史の真実を垣間見せる。
権利の話。イベリンは両民族の友好関係を目指して悩むが十字軍の歴史が其を妨げる。9回進軍による200年の争奪戦、不動の土地を賭して人間同士が所有権を争う行動は止められない。イベリンが馬と砂漠を歩けばムスリムは俺の土地だから馬も俺のものと主張、この逸話が所有権の常識を観客に再認識させ十字軍の悲劇を提示する。エルサレムの土地はキリスト教国かイスラム教国かを明確にする必要を強いられる聖地。
信仰の話。サラディンはイスラムの英雄。彼はエルサレムの支配に拘るがそれはクリスチャンの支配下でムスリムの信仰が保障されない事に起因。騎士達は隊商の襲撃を続ける為にムスリムは安心な参拝すら不可能、自らが統治する事であるべき聖地実現に努力する。特筆は彼がクリスチャンにもエルサレム巡礼を認めた事。彼の統治によりムスリムとクリスチャン双方に信仰の自由が約束された。
支配の話。サラディンの回答「無だ、だが全てだ」は深遠な言葉。無は理想、全ては現実を物語る。彼はエルサレムを戦争の種となる不要なものと捉えているがエルサレムはキリスト教とイスラム教の聖地である為、手放す事は出来ない。土地の入手こそが教義を浸透させられる方法。エルサレム支配は現実的な全て、彼は理想よりも現実を重視する人物でイベリンの様な理想家ではなく理想も語れる現実家。政治家としての側面が彼を英雄足らしめる。
歴史の話。十字軍は経済発展で豊かな暮らしを求めた民衆が領土の拡大を目論み彼等より文明的にも優れていたアラブ人の知的物的財産を奪った歴史。其はエルサレム奪還を名目に異教徒の殺戮と財宝の略奪を繰り返し同じ基督教徒への裏切り行為も行った。ローマ法王ヨハネパウロ2世はこの非を認める。
神子の話。バリアンはバーバリアンであり野蛮人を指す。本作では人間主義となるルネッサンス人として造形、中世の異端児を通して人間のあるべき姿が描かれる。また天国と地上を結んだのはキリストである事も強調する。大工の息子キリストと鍛冶屋の息子バリアン、彼はキリスト同様、天から地上に遣わされた神の子。イスラム戦も父から受け継ぐ騎士道精神が発揮され正義と正義との戦いとなる。
母性の話。バリアンはエルサレムに到着し父より譲られた剣を十字に背負い亡き妻のロザリオを埋める為にゴルゴダの丘を登る。彼が神の子として一人前の大人になる為には母性の排除が必須、その課程を経て初めて父の名を受け継ぐ事が可能となる。父と子と精霊の御名に於いての言葉に母は不在である。
贖罪の話。ゴッドフリーは自由なる神を意味しエルサレムで罪を購えるか尋ねる息子に父は手を見せろと答える。バリアンは妻のロザリオを司祭から奪還した際に十字の痕跡を刻印、神である父は見通した上で指示「これは神の意図された旅だ、行けエルサレムへ」。バリアンは人格者の父から騎士道精神や王国建設の理想と共にイベリン卿の名を受け継ぐ。背景に母や妻子の喪失等の犠牲があり贖罪により悲劇を乗り越える願望がある。父の意思を受け継ぐ旅は神の許しを求める旅となる。
3スジ2ヌケ3ドウサ3テイジ2コノミ