
Gravity
★★★★
2013年/91分 #アルフォンソキュアロン
主題はマット再会時の声明「大地を踏みしめ自分の人生を生きろ」。物語は如何にして地球に戻るかだけのシンプルなもの、そこに彼女の過去や未来が提示される。
見所はマットの質問場面「地上に居たら何してると思う」。彼女は覇気無く答える「ただ運転する」。これは人類の孤独を暗喩する。
原本はオリジナル。脚本は監督と息子ホナスで執筆、彼等は「逆境をテーマとしたジェットコースター的な緊張感が常に漂い観客が感情移入して感動できる作品を作りたい」として宇宙飛行士が何もない空間に飛ばされる絵が起点となり企画が開始。
主演はライアン#サンドラブロック、マット#ジョージクルーニー、ミッションコントロール#エドハリス。
撮影の話。エマニュエルルベツキのカメラは05年のニューワールドで覚醒し撮影監督の称号を獲得、06年トゥモローワールド、14年バードマン あるいは無知がもたらす予期せぬ奇跡、15年レヴェナント蘇えりし者と作品の度に奇跡の瞬間をフィルムに収める。
四方山の話。飛行士役は難航を極める。マットコワルスキー役はRダウニーJrからGクルーニー、ライアンストーン役はAジョリー、Mコティヤール、Sヨハンソン、Bライヴリー、Nポートマンと変遷しSブロック。製作費は$1億、デジタル撮影の後にポストプロダクションで3Dに変換される。
評価の話。監督Eライトはトップ1、Qタランティーノはトップ10に選出、Sスピルバーグは言葉が出なかったと感嘆、Jキャメロンは史上最高のスペースエンターテイメントと絶賛しアポロ11号乗組員Bオルドリンは描写が現実の宇宙に激似する事を称賛した。
映像の話。その美しさは圧巻。光斜角度や星屑風景、広大空間は臨場感と共に宇宙の美しさを知る感動に包まれる。NASA提供資料を元に細部に拘りCG再現されたヘルメット越しの地球は勿論、宇宙に於ける物的人的動作や環境の質感は本物と見紛うばかり。
変化の話。ライアンの目的は帰還だけ、問題があるならば帰還せずとも良い事情を抱えていた場合、マットと離別し孤独となった彼女は夢の中で彼と再会し生の執着を持たない事が露になる。彼女は最愛の娘を失い希望の芽を摘まれ立ち直れず人生を遊泳する。娘の所に行く方が楽で望ましい選択もマットから託された願いにより彼女は変貌を遂げる。
孤独の話。ライアンは必死でマットの命綱を掴む。命綱は船体に辛うじて繋がれた足に絡むロープ。手繰り寄せれば助かる二人、彼女は放さないがこれは実は孤独を拒絶する彼女の事情。彼は自分の事情では無く、彼女が生の執着を取り戻し彼女に希望を託す事が願い、人が独りでは生きられない理由が此処にある。
光源の話。太陽光や地球の反射光の再現性は特筆に値する。光加減を再現する為にライトボックスと命名される高さ6m横幅3mの装置を制作、内部には4096個ものLEDライトを取り付け太陽光や地球の反射光等、様々な角度からの光を創作する。
臨場の話。無重力空間の動作は自然で滑らか。撮影方法は2本のワイヤーで吊るして無重力を表現した。サンドラは装置の張力を感じさせない動作を習得する為に5か月の訓練を重ねた。衝突や破壊等の無音もお見事、宇宙では振動が伝わり難い為、至近距離や伝導音以外は無音、その再現が緊迫感を高めている。
音楽の話。本作は基本的に音楽は無く焦燥感が映画音楽。BGMは息遣いでライアンは宇宙空間に投げ出され呼吸音だけを響かせる。彼女がISS国際宇宙ステーションに辿り着く迄に宇宙服内部の残留酸素だけで生存する状況は緊迫の時間。マットは努めて陽気に通信するが「ガンジス川を照らす太陽、素晴らしい」を最後に通信は途絶える。後には絶望の砂塵音。
契機の話。人間は居心地の良い母体から居心地の悪い世界に飛び出す。胎児は泣きながらも自分で決めて陣痛を起こし生まれて来る。人間には母体から出て世の中と対峙する能力を根本的に備えており本能的に習性や強靭さを持っているが些細な契機により劣化、消失してしまう。
対比の話。生と死の対比は鮮烈、地球と宇宙、ラジオ音声と燃料切れ宇宙船、有音と無音で生死を隠喩する。ライアンは途中で娘との再会を理由に死を選ぶが漂流した筈のマットが入船、これは彼女の深層心理。彼は此処は居心地がいいと逆説的に表現、娘は死んだ、だが問題は今どうするかと未来を提示、彼女は自ら模索し解決する。ロシアによる人工衛星爆破による破片が90分毎に押し寄せる、これは避けられない周期的な人生の災いを隠喩する。
再生の話。ライアンは地球への帰還を決心し生の執着を取り戻す。宇宙と子宮は生命の起源に於いて繋がりを持つ。精子を想起させる宇宙からの大気圏突入に卵子を想起させる大地への着床、彼女は大気圏突入時に笑顔を見せ自分で生き方を選択し天命を待つ。人間は無限の可能性を秘めているからこそ生き続けなければならない。彼女が地上に戻り歩き始める様は重力と生命のリンク。監督は語る「逆境とそれを通じて再生する可能性が重要」
4スジ5ヌケ5ドウサ4テイジ4コノミ