
Velvet Buzzsaw
★★★
2019年/113分 #ダンギルロイ
主題はディーズの遺言「死後は描いた作品は全て廃棄して欲しい」。 見所はアートアドバイザーのグレッチェンがオークション会場で新感覚の球体展示物スフィアの穴に手を入れる場面。腕をもぎ取られ惨殺も翌日は展示物として扱われる。
原本はオリジナル、Netflix作品。監督はRアルトマン「ザ・プレイヤー」的作風と発言、同作は92年の風刺コメディ映画でHW内幕物の群像劇。
主演はモーフ#ジェイクギレンホール、ロードラ#レネルッソ、グレッチェン#トニコレット、ピアース#ジョンマルコヴィッチ。
迷走の話。モーフヴェンデヴァルトは著名な辛口批評家、ロドラヘイズは利益主義の画商、ジョセフィーナは野心家の画商見習い、この3名による得体の知れない偶像劇は変色した米国を炙り出す。モーフは自身の評価が作品の価値に繋がる名声を獲得している。彼は自分の信念に基づいた批評をしていたがジョセフィーナとの恋愛関係により利己主義的な批評へと変貌し迷走する。
変色の話。本作は90年代の主演ニコラスケイジ、監督Tバートン「スーパーマン」の企画時に参加した監督が見たHWの現実から着想している。当時の業界は商業主義は深い闇に包まれており、それを皮肉たっぷりに描写した。冒頭のロボットはスーパーマンリブート版頓挫の経験から着想、ロボットがスーパーマンの末路と映るのは当然。
商業の話。映画界で重要視されるのは作品の質より価値。作品が如何に利益を生み出すかに懸かっている。近年の続編、リメイク、リブート、スピンオフ戦術はその表れ。新作をゼロから作るより既に成功した作品に絡めた方がリスクは圧倒的に下がる。この閉塞感と停滞感は商業主義そのものであり、やがては多くの弊害をもたらす。
復讐の話。モーフは鯨のミスティートアートを体験した際に自分の酷評が反響する現象に陥りパニックとなるがアートを稼働させる電源は入っていない。それは自らが貶めてきた作品からの復讐であり自身の贖罪の表れで結局はロボットのホームレスマンに首を折られ殺害される。彼は個人の意見で大衆を先導し作品の価値を恣意的に操作した報いとして抹殺される。当然芸術的価値を貶められた者達の犠牲があり存在している。ホームレスの復讐は監督の復讐でもある。
自業の話。ロドラにとってアートの価値は芸術性ではなく商業性。彼女はディーズ作品に魅了され荒稼ぎを企てる。しかし彼の絵画はジョセフィーナが勝手に持ち出したもので彼自身は焼却処分を望んでいた物。商業主義に反発し批判する意思表示をしながらも商業主義に利用されてしまう。作者の意図と相反する目的の為に芸術を利用される事で事件は勃発する。彼女は自らの刺青により命を落とす。
組込の話。ジョセフィーナはバーの駐車場でレッカー車を待つ。突然、目の前にギャラリーが出現し中にはストリートアートが所狭しと並んでいる。彼女は店内に引き込まれ興味深く作品を観賞、やがて作品の絵具が溶解を始め床を伝い彼女の体を次第に侵食し始める。翌日になると彼女は姿を消している。駐車場の壁に彼女によく似た絵の影が薄く残される。
猟奇の話。ディーズの絵画は幼少期の記憶、家族が火中で死への怒りと叫びをあげる。モチーフは目や口を持たない人間で赤絵具は自身の血液を使用した猟奇的なもの。それは父親の虐待で育まれた自身の暴力性を内包する。彼の芸術表現は内に秘めた感情の叩き付けで人生に向き合って折合いをつける作業。自分の存在意義で商業とは無縁のものとなる。
抹殺の話。本作はロドラがかつて所属していたパンクバンドが題名、彼女は芸術家だった頃の自分に殺される。芸術の価値を商業で歪曲させ自らの利益を得る為に絵画を利用した彼女の背信行為は自分への裏切りとなって自らを抹殺する。モーフも彼女と同類、自らで自らを罰する。
根源の話。終焉の絵画にはディーズ幼少期の美しい心象風景が封印される。彼は生前に辛苦連続の現実に苛まされており、狂気の絵画を廃棄する事で自身の理想となる静粛性を求めた。芸術の根源的意義は純粋な自己表現である。現代の芸術は批評が価値を生み出し商品として流通するもの、歪曲された状況が不幸を招き入れる。
多元の話。ピアースは終幕で砂浜に作品を描く。ロドラに売れない芸術家と宣告された彼は波によって形を変えるランドアートを選択し自然の意のままに自由に自らの世界を創作する。そこには現代の過剰な商業主義に対しての彼なりの答えが明示されている。芸術の価値は一元的ではなく多元的、個々の視点で変化するものである。
四方山の話。ディーズのモデルはヘンリーダーガー。彼は掃除人、世間との接触を断ち自宅アパートに籠り挿絵付小説「非現実の王国で」を執筆、死の直前に部屋から発見された作品は小説15000頁、挿絵300枚超。内容はヴィヴィアンガールズが奴隷制のある軍事国家と戦う物語。彼は満足な教育を受けていない為、構成も挿絵も上手ではないが、その世界観は多くの人を惹き付ける。
3スジ3ヌケ3ドウサ4テイジ3コノミ