
Hogar
★★★
2020年/103分 #デヴィッドアレックスパストール
主題は冒頭のCM「あなたにふさわしい暮らしを」。主人公自身が創ったこのイメージが全ての元凶。最後の台詞は恐喝であり現実社会を的確に現す「路頭に迷うぞ」
見所は荒唐無稽な殺害方法。向かい部屋の犬ヨナス毒殺や幼児愛好者の庭師ダミアンの火炙り、ピーナッツアレルギー利用のトマススプレー噴射殺とバラエティーに富んでいる。
原作はオリジナル、Netflix作品。主演はハビエル#ハビエルグティエレス、トーマス#マリオカサス、ララ#ブルーナクッシ。
家族の話。男は広告業界で経験も実績もあり何不自由の無い生活を営んでいるが突然失職する。この転落は彼を狂気へと駆り立てる。狂気の発動は仕事のキャリアや家族への威厳、富への執着など理由は様々だが、ある行為が契機となり倫理すらも見失い崩落へと突き進む。本作は二つの家族を軸に小世界で起きる混乱であり家族の黙示録。
過去の話。幸福を絵に描いた家庭がある。その家族は衣食住の全てが満たされる人が理想とする環境。電機店のCMコピーを見ている3人、2人は若年で1人は年配の男達。これは会社の面接で「当時から傑作」や「子供の頃に見ました」の語りは本音か世辞か解らないが時代と時間の経過を物語る。
憐憫の話。ハビエルは面接官から素晴らしい職歴や経験の豊かさを絶賛されるが、当社では役不足と体よく拒絶される。反論すれば若さも冒険心も感じられないと真っ向から否定される。受付では駐車印を貰えない事に苦情を申し立てるが、憐憫の情を以て事務的に処理される。全てが負に作用する。
帰宅の話。ハビエルの自宅は高台の超高級マンション。面接は好感触と妻マルガには見栄を張るが妻は少なからず察している。妻は気遣いを見せ引っ越しを持ち掛け、彼も承諾し車も売ると約束。家事手伝いアラセリを送迎し事情を説明、辞職を言い渡せば怒りと憎しみを露にされ鍵を投げられる。
持家の話。ハビエルは次の面接で契約書にサインを求められるが試用期間3か月で無給の上に格安扱いを受け激怒、自分の車を蹴り上げ怒りを発散する。その時、車内で投げつけられた前家の鍵を発見する。此処から人生が狂い始める。前家に侵入して新住人の持ち物を物色し冷蔵庫から飲み物、窓からお気に入りの景色を眺めて以前同様の優雅な一時を過ごし始める。
禁酒の話。ハビエルはこの家で5つのメダル、事故で怪我をした女の写真、酒気帯び運転での免停書類を発見、カレンダーには守護天使小教区での用事といったヒントを発見する。それを元に教会に出向き主人トマスの参加する禁酒会セラピーに加わる。そしてトマスは何度も禁酒に失敗している事実を掴み取る。
権威の話。ハビエルは禁酒会でトマスと直ぐに打ち解ける。これらは全て計画的行動で以前の持家ボスキ通り78番地5階2号室目当ての仕業。彼にとっての男らしさは家と車である。妻はただの家と言うが彼にとっては権威の象徴。彼は奪還を本能の如く遂行する。唯一の失敗は庭師のダミアンに計画を察知され弱味を握られた事。
価値の話。ハビエルは本当の家族すら邪魔者に感じ始める。息子ダニをランニングに無理矢理に付き合わせ嘔吐するまで追い込んで行く。息子が男らしさの価値観に合わないと判断すれば容赦なく切り捨てる非情な一面を見せる。妻に転売を約束した車も持ち家奪取の道具として使用する。
欲望の話。欲望は止まる所を知らない。ハビエルはトマスの妻ララと娘モニカも奪い取る計画に打って出る。しかし二人は愛に寄るものではなく存在価値としてのお飾りに過ぎない。これはアカデミーでも話題となったトキシック・マスキュリニティの社会問題を内包する。
課題の話。男らしさへの拘りは男性的には譲れない重要なもの。若年者から指示される屈辱や妻子に愛想を尽かされる悲哀、それらを感じつつ自宅待機する羞恥心は男のプライドを傷付ける。夫や父としての威厳は独り善がりなものだが未来永劫的な課題である。
犠牲の話。トマスは完全な犠牲者であるが彼も男らしさは終始満たされず足掻いている者の一人。妻の父親がトップの会社に在籍する苦痛は尋常では無い。また再起を賭けてやり直そうとした瞬間に他者に利用され足元を掬われる。これも現実にあり得る現象、フィクションで無い恐怖の物語。
虚像の話。現代はリストラやハラスメント、着服や横領等で会社を追われる男達に溢れている。しかし男達にも再起の機会は十分にあり失策が帳消しにされるばかりか新たに条件の良いポストに居座る場合もある。終幕では冒頭制作CM同様に彼の創造した家庭が映し出されるが蛇口からは水滴が漏れ破綻が隠喩される。華やかな光景は虚像に過ぎない。
2スジ3ヌケ3ドウサ3テイジ3コノミ