Doctor Sleep
★★★
2019年/152分 #マイクフラナガン
主題は霊となったダニーがアブラに掛ける一言｢君はそのままでいい｣。彼は自分に言い聞かせている。過去に縛られず輝き続けて生きる事の素晴らしさを。アブラは自ら257号室の扉に飛び込む。
見所はバーの場面。原作の名言で映画で抜け落ちたバーテンの一言｢お前は酒を飲むか｣を復活させお酒を振る舞った。この場面でダニーが父への思いと共に彼の様にはならない決意を告げる。
原作は#スティーヴンキング の同名小説。｢シャイニング｣の40年後となる続編。
主演はダニー#ユアンマクレガー､ローズ#レベッカファーガソン､アブラ#カイリーカラン。
原作の話。原作者Sキングは13年頃に執筆を開始するが彼は映画版シャイニングには否定的な立場は崩さず続編である本原作では徹底的に映画版を無視している。勿論､映画版は不朽の名作で監督フラナガンはこれを無視出来ない。結果として展望ホテルの一幕は原作を改変する。全体に原作が内包するサイキックバトルや父子の関係を補填して完結させる。
相違の話。キングは語った｢キューブリックの映画と私の小説の違いは彼の映画が氷で終わるのに対し私の小説は炎で終わる事｣。シャイニング小説版でホテルは炎上して滅亡するが､映画版は氷結して封印される。この終焉の違いがキングが一番許せなかった大きな争点となる。
難題の話。キューブリックは迷宮の雪中庭園､青服の双子少女､237号室の浴槽裸婦等を取り入れた恐怖イメージを大量に取り入れ､人を敢えて描かず､謎を増やす事で恐怖の概念を確立。製作と作者と観客､三者から難題を出されたフラナガンは原作と映画の調和を図り､キューブリックの映像美とキングの父子ドラマを見事に融合させる。
選択の話。キングはアルコールや薬物依存に陥り妻から治療か離婚かの選択を迫られ最終的には家族を選び復活を遂げた。しかし分身ジャックはアルコールを選択する。キングは人生を本作のダニーに投影､ダニーは暴力的でアルコール依存と父の気質を引き継いでいるが懸命に克服しようと努力を重ねる。
無残の話。本作はキューブリックの新解釈で名作となったシャイニングをフラナガンがキングの解釈で原作者の手に取り戻す事に成功したファン納得の一本である。反面､キューブリックが氷で封印した最上の恐怖を炎で溶解させ無残にも焼き尽くしてしまう。私的にはレディプレイヤーワンありきの一本と推察する。
補填の話。原作では真の絆メンバーはアブラとダニーの敵役としては物足りない集団である。銃撃戦も死人も出ない展開は緊迫感も無く盛り上がりに欠けている。映画的改変を余儀なくされた結果､本作で物語に山場を作ったのは苦労の跡が感じられ､音響や撮影もキューブリックの手法を踏襲したのはお見事。
反映の話。原作ではダニーとアブラは血縁関係にあるが映画で､この血縁は排除､この事によりダニーが過去と純粋に向き合う姿勢が明確化された。キングはジャックの分身でありダニーはもう一人の自分､だからこそ彼はアブラに子孫に対する不安を反映させ､同時に未来への希望を託している。
投影の話。アブラは守護霊となったダニーと自分の部屋で過去を振り返り未来を語る。キューブリックはシャイニング製作期にキングに電話し原作と映画の決定的な違いを語った｢死後の世界があると思うなんてゴーストストーリーを書く作家は能天気｣。キングの作品は彼の人生を投影するがキングとジャックが別人である様に小説版と映画版も別作品である。
協同の話。意外なコラボレーションも見所の一つ。アブラの部屋にRWBYのポスターが貼ってある。これはファンタジーアクションWebアニメでベッド脇にはキャラフィギュアまで登場､キャラはアブラ同様の黒人女性でポップなヒーロー。
能力の話。本作はダニーの再生と継承でアルコール依存症と向き合う人生の決着の物語。自分の過去を直視して対決出来るかは誰もが経験する永遠の問いかけ。アブラへと受け継がれる魂は年齢や人種といった枠を超え人類が永遠に追い求める基本的な能力である。
後書の話。キングの分身ダニーが父の亡霊と向き合う。彼はバーで酒は飲まない事を宣言し過去の弱い自分と決別する。これはシャイニングの頃と現在の自分は別人である事実を物語る。原作本の後書きで彼は語った｢人は変わる､ドクタースリープを書いた男はシャイニングを書いた気のいいアルコール依存症者とは別人だがどちらも関心の対象は同じだ｣
終幕の話。原作ではダニーが錯乱した父ジャックに超能力で｢仮面｣と呼び掛け現実に引き戻そうとするが､映画はアブラとダニーの間でこれを実現させた。小説版シャイニングの終幕はダニーが父の死を悲しみ涙したが､本作で前作の話を回収している。40年の時を経て原作に存在するダニーの感情を蘇らせ､キング最大の不満となる展望ホテルを炎上させ消滅させた。キングは語る｢ドクタースリープの原作こそトランス一家の正史であり正統な続篇だ｣
3スジ2ヌケ4ドウサ3テイジ4コノミ
