
若おかみは小学生!
★★★★
2018年/94分 #高坂希太郎
主演はおっこ#小林星蘭、おばあちゃん#花澤香菜、真月#水樹奈々、グローリー#ホラン千秋。
主題はおっこの決台詞「花の湯温泉のお湯は誰も拒まない、全てを受け入れて癒してくれる」。言葉通り花の湯温泉は都会で傷つき疲れた者を受け入れ元気にする場所、見返りに彼等は工業製品の恩恵に預かる。本作は都会と理想郷の共存である。
見所は死場面の描写。直前の狐面からトラック追突の衝撃、緊迫感のある音楽と共に不穏予兆の表現描写は秀逸。またグローリーとのドライブでのフラッシュバックシーンの凄惨さはPTSD発症も頷ける圧倒的現実感。その後の鬱憤晴らしの買物は反作用となる盛り上がりを見せる反意法。
原作は#令丈ヒロ子 同名小説、副題は花の湯温泉ストーリー。
成長の話。おっこは夢で両親と話をして守護霊となる幽霊達を登場させ旅館到着後も両親の死を受け入れず悲しい素振りを見せない。転換期は占師グローリー水領とのドライブ、凄絶事故のフラッシュバックで死を認識、そして彼女は両親を殺した加害者と対峙する事で見守る両親と正式に離別し春の湯温泉と共に全てを受け入れる。
邂逅の話。旅館客はおっこの現在と未来と過去を暗示する。最初の客あかねは親の死を嘆き塞ぎ混む現在、次の客グローリーは困難を乗越え人を癒やし溌剌と生きる未来、最後の客翔太は両親に甘え目の前の虫を嫌がる過去を現す。彼女が死を受け入れ乗り越えられたのは旅館客を通して現在と未来を逡巡しながら過去に邂逅した賜物である。
自助の話。おっこは旅館訪問ではスーツケースを自分で持ち、加害者もお客様として持て成す自立している女性。根本として持つ精神力は強く揺るぎない。苦境に陥れば自助力を以て両親や守護霊達を登場させ窮地を乗りきるべく奮闘、周囲の人々もその頑張りを決して見逃さず後押しを始める。
未来の話。おっこは伝統芸能の神楽を両親と観賞、両親は神楽を舞う娘を想像し未来を期待する。12年しか生きていない彼女は意思もなく自分の未来を想像出来ない。この街の同級生は夏休み中に家業を手伝い、高級ホテル経営者の娘であるライバルの真月も意思を持って未来を真剣に考える。
牽引の話。真月はピンフリで派手に着飾り高慢な格好も相まって勘違いされやすいがレストランの語源から医食同源を考え、観光の為に緑地をライトアップ、植物のダメージも考慮し時間設定する等、一切の妥協は無く努力を怠らない性格。彼女の存在がおっこの意思を牽引する。
神楽の話。冒頭の神楽は花の湯温泉由来の舞。村人が狼退治で山中に入るが湯治する狼を前に矢を射れず一緒に湯浴する内容。神楽の詳細説明は無いが懐柔される話、おっこは両親の死で行場を無くし旅館に入るが気が付けば本人が女将への道を突き進む。
成就の話。おっこは思い込みが原動力、両親は目を閉じれば温かく包み込み生き続ける。茫然自失とする中で呟く「なぁんだ死んでなかったんだ」。守護霊達も彼女の願望でありながら我々が支えられ勇気付けられて生きて行く事を隠喩する。彼女の成長と比例し守護霊達は消え子供時代が終わる。彼女が叫ぶ「一人にしないで」。成仏は残されし者の成長で成就する。
労働の話。本作は12歳が超えるべきハードルを浮き彫りにする。一見、理不尽に映る行儀作法や接客知識等の叡智を身に付ける事で万民に慕われ支持を受ける。周辺の人々も含めた成長を悲喜交々で描き出す。彼女の元気は他者へのエネルギー注入、働く時にこそ力は発揮、労働の喜びに溢れている。
業務の話。旅館業は己の感情に左右されれば生業として成立しない。他人の為に尽くす事で得難い力を与えられる。仕事に規定は無く職場は自己選択や遣り甲斐の様な世間の常識に囚われず自由に自己表現する場所、良し悪しは最後迄解らない。
独立の話。本作の重要な特色として子供も働く里以外にエコが挙げられる。温泉街を走る車は全てEV車、街中に地熱発電、山上高原では野菜作りに牧畜。観光資源としての温泉もあり花の湯温泉は自給自足を目指す別世界の設定が成されている。現実と非現実のバランスを変え創造された子供も労働に従事できる独立国が花の湯温泉である。
影響の話。ハイジ、コナン、千、ホルスでは工業的な都会と人知の粋を集めた理想郷の対比が主題。本作でEV車制作や動力の為に工業力が必要となり、何れも片手落ちとなる。狸合戦やかぐや姫で理想郷存続の敗北を描いた事を考えれば両者は永続的では無い。理想郷も都会の支えで存続が可能、一方の否定は両方の否定。監督は両者を対立関係で捉えず花の湯温泉とSC等の外部世界の両立を提唱する。
4スジ3ヌケ4ドウサ3テイジ4コノミ