
Ad Astra
★★★
2019年/123分 #ジェームズグレイ
主演はロイ#ブラッドピット、クリフォード#トミーリージョーンズ、イヴ#リヴタイラー、トーマス#ドナルドサザーランド。
主題はクリフォードの呟き「彼方の無だけを見てそばにあるものを見なかった」。この言葉が最後のロイ宣言へと繋がって行く。
見所は動物実験用宇宙船の救出でのマントヒヒによる襲撃と船長殺害場面。恐怖は一つではなく未知に領域には予想外の事が潜んでいる。
原作はオリジナル。原案は地獄の黙示録の原作ジョゼフコンラッド「闇の奥」
現実の話。本作は自身探求の物語。地獄の黙示録や2001年宇宙の旅、E.T.の影響を受けている。此等作品は全て他者と交流の必要性を描く話、又あり得る近未来を徹底的に調査し現実世界の話として映像化。特に監督は宇宙服へ強い拘りを示し語る「私は登場人物が着るべきものを着ているというだけにしたかった」
暗中の話。地球外生命体の存在を求め宇宙の奥に消えた父と探索の為に旅立つ息子。人間の深淵や孤独を宇宙に象徴させ観客を広大で孤独な闇へと誘う。闇の中では本当に大切なものは何かを考えさせる。親子対峙の形式も実は自分や人生との対峙となる物語。動の印象が強いブラッドも皺や瞳を使った静の演技で演技者として一歩奥へと踏み込んでいる。
変換の話。撮影はダンケルク、インターステラーのホイテヴァンホイテマ。本作はデジタルフォーマットを使わずフィルム撮影に挑んだ意欲作、死生感が漂う音楽と共に透明感や奥行きを通して宇宙の臨場感が体験出来る。競演者もTLジョーンズやDサザーランド、Lタイラーなど重鎮揃い、配役は本人達が培ってきたイメージとも重なり物語を重厚なものに変換させる。
視覚の話。宇宙風景はNASAや宇宙飛行士のFBを受けCG再現、最早実写レベルの美しさ。月や火星面はCGではなくロケ撮影を敢行、月面カーチェイスはカリフォルニアの砂漠で無彩色映像を加工する手法を採用し最高の視覚効果を生み出した。
演出の話。映像と物語は絶妙な配分を見せ演出の冴えを際立たせる。月面俯瞰からの車両近接、遠方には青く光る地球。直後に盗賊襲撃の攻防戦等の俯瞰と近接の巧妙なる使い分けの映像は見事。父子の別れも俯瞰と近接の調子を転ずる事で見せ場を最大限に演出する。
心情の話。本作は広大な宇宙と矮小な人間の対比を父子の心象風景として映し出している。宇宙の中で人は遠景では静止しているが近景では激動している。父子は無表情だか心情では揺動している。父子の心中は宇宙と人間の大きさの対比とリンクする。
反面の話。父クリフォードは船中で乱闘騒ぎを起こしクルーを皆殺しにする。彼は宇宙飛行士の任務を全うした英雄だが地球外生命体の発見に囚われるが余り周囲が見えなくなる危険人物でもある。この事件は彼が目的の為なら手段を選ばぬ真摯さと共に狂気性を匂わせる。
英雄の話。ロイは完璧の憧憬と父の激情に呑み込まれる。彼は海王星で隠された父に再会するがこれはオデュッセイアの英雄譚、回遊も黙示録の川登りを想起させる。彼は父を説得し地球へ連れ戻しを図るが父は応じない。宇宙の彼方へ姿を消す事で間接的な父殺しが成立する。
栄誉の話。父は科学者の誇りを胸に生存を続け現在も己の任務に取り組んでいるが成果は得られていない。彼は一度は地球へ戻る事に同意するが結果的に反古してしまう。これは父が子の為に自ら離別を選択する栄誉の戦死と受け止められる。
真実の話。リマ号の真実は探索派と帰還派のクルーが対立、帰還派が反乱を起こし探索派の父は鎮圧の為に乗員を殺害、軍の目的は核搭載のリマ号破壊。ロイは軍の命令を無視しリマ号に向かうケフェウス号に乗船、リマ号最後の生存者となる父と再会、サージ発生は反乱者の仕業と判明する。
選択の話。彼は関係が壊れた妻イヴと向き合い、父には出来なかった二人の関係を修復する為に荊の道を歩み始める。未知の宇宙への憧憬を捨てて、現実の生活を直視し始める。彼は一日一日を大切に生きていく道を自らの意志で選択する。
宣言の話。終幕はオデュッセイア同様に成長した主人公の帰還が描かれる。物語は父とは違う道を歩む決意を示したロイの姿が映し出され終焉を迎える。ロイは宣言する「先の事は解らないでも心配はしない、身近な人に心を委ね苦労を分かち合う、そして労り合う、私は生き愛する」
3スジ3ヌケ4ドウサ3テイジ3コノミ