
1922
★★★
2017年/102分 #ザックヒルディッチ
主演はウィルフレッド #トーマスジェーン、アルレット #モリーパーカー、ヘンリー #ディランシュミット。
主題はヘンリーの言葉「きっと他にも手段があった」。告白書を書きながら家族の幸せだった頃を思い出し後悔が押し寄せる。
見所は鼠が目玉をくり貫き口から飛び出してくる場面。妻を殺害し井戸に隠すもウィルフレッドは気になり死体を覗きこむ。妻を無数の鼠が食い漁る。
原作は#スティーヴンキング 同名小説。Netflix作品。閉鎖空間の人間描写はキングの真骨頂。本作も動機からの行動や心中の抑揚が葛藤が丹念に描かれる。
崩壊の話。ウィルフレッドは一人ホテルの一室で独白する。時代は1930年で世界恐慌の真っ最中、題名に当たる1922年は米国が激動し始める瞬間。都市は工業が発展し産業が活性化を見せる反面、農村は貧困化が進み格差が拡大を見せる。ジェイムズ家の崩壊は米国経済の崩壊を隠喩する。
幇助の話。鼠が重要なマクガフィンとなる。妻を殺害し井戸に投げ込み翌朝に死体を覗き込めば無数の鼠が群がっている。妻は富の象徴で鼠が富に群がる民の象徴、身元なき民衆が富を食い尽くす惨状は醜く衝撃的。彼は欲に駈られて後先を考えず経済の崩壊を幇助する形を取ってしまう。
混乱の話。ウィルフレッドは死体を隠蔽する為に飼牛を井戸に落とし井戸を土で埋めるが此も焼け石に水、身代り投入や金銭の注入では所詮、経済の混乱は収まらない。そして更なる悪夢が幕を開ける。死神から召集された鼠が彼に取り憑き始める。鼠は閉鎖空間を離れ配水管を伝い、家壁を突き破って生活空間に一斉に侵入し始める。
転落の話。ウィルフレッドは妻の帽子入れの裏で手を鼠から食い千切られる。必死に振り払って駆除するが傷は深く高熱にうなされる。通院は暴風雪で儘成らず農民の命ともなる片腕を切り落としてしまう。この鼠の一噛みが致命傷となり彼の転落人生が始まる。
無罪の話。ウィルフレッドを保安官が尋ね尋問する「二日前に排水溝に横たわる女性の遺体が発見、その遺体には奥歯が二本無かったがアルレットの特徴と一致するか」。一連の応答は殺害した死体が別の場所で発見された事を示し彼の無罪を物語る。世の中の真実は一つでは無い事を比喩している。
仮説の話。アルレットの死体発見によりウィルフレッドの完全犯罪が成立する。彼はそれを目論見、保安官に曖昧な頷きを以て対応した。注目すべきは彼女の死体が他から都合良く現れた点、彼女の殺害自体の信憑性が問われ、此処に殺害自体を根幹から覆す仮説が生まれる。結局は殺害後の予期せぬ問題で脆くも崩壊する真夏の世の夢。
帰宅の話。不幸が緩やかながら確実に連鎖を始める。ウィルフレッドは友人サリーから格安の土地譲渡を拒否され、修繕出来ない破れ屋根、暖房の効かない極寒の中で自宅に籠るだけの生活に陥る。深夜になり猛吹雪の中から死神と化した血塗れの妻が大量の鼠を従えて帰宅する。彼女は彼の耳元で死者だけが知る息子の顛末を囁き始める。
葬儀の話。ヘンリーは恋人シャノンと逃避行の果てに結婚をするが強盗を働き彼女は射殺され彼も後追い自殺を遂げる。息子も彼女も鼠の形を借りた魔物に食い尽くされ朽ち果てる。葬儀は列席者多数の彼女に対して息子は夫妻だけが参列する寂しいもの。葬儀自体には意味は無く列席者の顔ぶれが彼の人生そのものを具現化する。
殺人の話。ウィルフレッドは罪の意識に苛まされ何度となく苦しむ為に殺人は複数回の印象が強いが描写は1回。彼は緻密で冷静、殺害後は妻失踪の状況設定や捜査対策も計画通りに進め息子も上手に利用し立ち回る。予想外の綻びはヘンリーの心の弱さが運んでくる。妻の殺害理由は100エーカーの土地を発端にした自分達の生活、右手と土地だけでは無く全てを失う。
道徳の話。人が抱く悔恨の念は決して消せない。誰しも常に好策を考えて成長し続けながらも生きていく。過去の自分は知恵者では無かったり感情が邪魔をしたり上手く行かなかったと苦悩する。間違った行動は時間の経過と共に徐々に表在化、道徳的価値観は人其々だが罪は消せない上に周囲の人達をも巻き込み暴走を始める。
人命の話。ウィルフレッドは母殺害の後に息子が呟いた言葉を反芻する。自分が今後背負う罪を振り返り家族3人で暮していた幸せな頃を思い出す。二度と昔には戻れない後悔が彼の心を締め付ける。現実的な殺人行動や心理描写が強い為に物語の根本を希薄にするが、終幕は人命の重さや幸福の意味を改めて我々に問い掛ける。
3スジ3ヌケ3ドウサ3テイジ3コノミ