日の名残り

The Remains of the Day

★★★★
1993年/134分 #ジェームズアイヴォリー

主演はジェームズ #アンソニーホプキンス、ミスケントン #エマトンプソン、ルイス #クリストファーリーヴ、カーディナル #ヒューグラント

主題はミスケントンの言葉「使用人同士の結婚は誤解を招きます」。ジェームズは恋愛厳禁を宣言、此処から彼の呪縛に苦しむ人生が始まる。最初の出逢いから二人は抑圧の道筋を辿る運命を強いられる。

見所は何の本を読んでいるか尋ねられる場面。ジェームズと彼女の関係に決定的な転機をもたらす。ココアを飲みながらの打ち合わせは二人も気付かないで愛が育まれる瞬間。

原作は #カズオイシグロ 同名小説。作者は99年の対談で映画について質問され異なる芸術作品だが従兄弟の様なもので結構気に入っていると述べている。

書簡の話。本作はミセスベンとなった彼女のジェームズ宛書簡で開演、彼は彼女が屋敷に戻りたい事と離婚したい事を推察、彼女はその時期が人生で一番幸せな日々と回顧する。手紙は本人朗読の為、我々は彼女を理解し深く寄添う。原作は彼の回顧に始まる。

対比の話。新主人は原作がファラディ、本作は米国人ルイス。異国の主従関係は新たな空気を物語に吹き込む。ルイス主催の狐狩りは昔の栄華と今の寂寞を時代で対比、ミスケントンとの出逢いは穏やかなミセスベンと自転車で颯爽と登場の彼女を躍動で対比させる。

品格の話。ジェームズの想いは原作で田園風景を前に風景の品格を主張、本作は青年召使に執事の品格を進言する。また原作は父がインドの執事を模範とし主人の中傷に対する威厳ある態度や戦争で兄を死に追いやる指揮官の苦渋を語る。執事職への想いは原作がより深い。

予見の話。デュポンはパーティでルイスを批判するが原作では更に攻撃的、情熱を以て国の将来を警告する。ウィリアムの転倒から死に至る逸話は原作同様もベッドの独白「母さんを愛せなかった」は本作独自の解釈、親子が同じ運命を辿る事を予見させる。

削除の話。原作の削除場面はミスケントンが多忙で苛立ち今後直接声を掛けない様、ジェームズに要望する点と彼がレジナルドへ生命の神秘を説明する点。レジナルドとのガチョウ論議は残る為、喜劇性の強い場面を残し原作とのバランスを整え進行する。

無知の話。ジェームズは旅行中にGSの男からダーリントン卿を知っているか質問され知らないと嘘をつく。原作では卿についての出鱈目を聞きたくないからとしたと言訳けも本作は郵便局員から「ナチのシンパの」と怪訝な顔で逆質問され以前の持主は知らないと嘘を言わず無知を装い暈す。

宿泊の話。宿泊先にも違いが見られる。原作はテイラー夫妻の長男の部屋、本作はパブ主人のダンケルクで他界した息子の部屋。また原作ではテイラー夫妻宅に地元民が集まり戦争の犠牲者について対話、本作は戦争の犠牲者の部屋に協力者で非難された卿の部下として宿泊する皮肉が込められる。

女中の話。ユダヤ人女中は丁寧に描かれているが二人の解雇後に採用したライザの描き方は異なる。原作は下僕と駆け落ち、本作はリジーとして登場し召使と庭でキスし喫煙する奔放な女性、ミスケントンが彼女への雇用責任を明示する背景を受け、結婚退職を報告し退職する律儀な面も描く。

機会の話。ジェームズは来客から政治的質問をされ己の立場を弁え全てに意見しない。これは彼が執事の品格やプロの尊厳を示した反面、融通の効かない頑固さを現す。彼はその一途さ故に愛情や野心を勝ち得る機会を逸する。

視点の話。終焉には主題の違いが現れている。原作は主人の為に冗句の練習をしようと意を新たにする、本作はケントンとのバス停前での別れを経て屋敷へ戻る。一人称が二人称かの違いにより主題は変化する。

部屋の話。別離の決め手となる部屋の場面、原作は彼女が部屋のドア向こうで涙する事を推測するだけ、本作は部屋の中に足を踏み入れ涙する彼女に近づく。しかジェームズは所要を伝えるだけ、彼女に心を開かずその場を去る。原作の距離感は素晴らしい。

終幕の話。屋敷に鳩が迷い混み主人が逃がし執事が窓を閉める。屋敷が徐々に遠退き最後は俯瞰で捉えられる。屋敷の窓が彼の執事としての世界の枠組、枠を越えた開放的生き方は出来ない。自らで自由を束縛し主人に仕える事を使命とした彼の拘束と自由が対比されての幕切れは秀逸。

演技の話。アンソニーとエマは繊細な視線で互いの存在を意識する最高の演技を見せる。ジェームズは朝食を運ぶ時、中国人形で張り合う時、鍵穴からミスケントンの姿を覗く。彼女も彼の父を二人で並んで見る時、何の本を読んでいるのかと近づく時、彼に緊張した眼差しを注ぐ。

客観の話。作者は原作と映画の違いを映画は愛の感情を抑えすぎた二人の生き方、小説は自己を否定し無にしてしまう生き方と述べる。小説はジェームズの価値観で人間関係を見つめ自分の感情や欲望を抑えた無私の執事人生を主観的に描き、映画は彼の心の細部を直接覗き見せず二人の抑えた恋愛感情のすれ違いを客観的に描く。作者は語る「我々はみな執事の様なものだ」

4スジ4ヌケ5ドウサ5テイジ4コノミ

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