
The Half of It
★★★★
2020年/104分 #アリスウー
主演はエリー #リーアルイス、ポール #ダニエルディーマー、アスター #アレクシスレミール。
主題はエリーの叫び「愛は綺麗な絵を台無しにする事、凄い絵を描く為に」。彼女は綺麗に済ます事を美徳と感じず失敗しても諦めず自分の大切な人と凄い絵を描く為に努力し続ける事が愛と悟る。
見所はアスターとの温泉場面。エリーは羞恥心から洋服を脱がない。彼女は可愛く言訳「いやこれマトリョーシカみたいな肌着だから」。彼女はアスターへの憧憬により服を脱ぎ続ける彼女に目を向けられず咄嗟に身を翻し後ろを向いてしまう。
原作はオリジナル、Netflix作品。監督は中国系の女性で本作は彼女自信の実話に基づく物語。
饗宴の話。題名はプラトン「饗宴」から引用。人は元来両性具有の存在で神が体を切断し現在の男女が生まれた考え方。男女は一生を掛けて互いに自分の半分を探し続ける。本作は同性愛を題材に旧来より受継がれてきた愛の定理を主人公エリーが自分の言葉で破壊し前進していく物語。
出口の話。内容はサルトル「出口なし」から引用。エリーはアスターを、ポールもアスターを愛しているが次第にポールはエリーを、アスターはポールを愛し始め、まさに出口無き状況に突入する。サルトルはこの戯曲で「地獄は他人」と提唱、ポールはこの存在をエリーと指摘、師弟関係が逆転する。
影響の話。告白はヴェンダース「ベルリン、天使の詩」から引用。天使は語る「渇望してる、愛の波に満たされるのを」。エリーはポールのラブレター代筆もアスターは一枚上手、返答は「私も好き、でも盗作はしないで」。またOワイルドも引用、「恋はいつだって自分を欺くことから始まり他人を欺くことで終わる」。エリーはアスターへの本当の思いに気付けずポールに協力を依頼、彼女の愛は欺瞞から始まる。
人物の話。父エドウィンは毎晩の名画鑑賞が日課、劇中「カサブランカ」は人物3名が本当に好きな人と一緒に居られず自分を偽り生きる話、前述「ベルリン」は天使ダミエルがマリオンに触れようとするが彼は実体を持たない存在の為、触れられない話。エリーの立場は双方の主人公に酷似する。
書籍の話。エリーはアスターが「日の名残り」を愛読する事実を知る。小説は主人公の執事が自らの意思で思想や愛情を禁じてしまう物語。彼は晩年になるまで自分の気持ちを表に出さない事で人生の夕暮れ時になって初めて深い悔恨に苛まされる。これもエリーの心中を反映する。
行動の話。エリーはこの地域で希少なアジア系の同性愛者。自身の弱さを人に見せず粛然と生活する。意中のアスターへのラブレター代筆業は抵抗あれど生活を言訳に彼女と繋がりを持つ為に行動を起こす。理由はどうあれ行動が思想をもたらす。
理解の話。エリーは自分の言葉で手紙やチャットを送るがアスターは知る由もない。山中の温泉でアスターは手紙の差出人を自分の理解者と明言する。エリーは学校で本を落とした際にアスターが町で唯一の理解者と確信する。両者の思いは通じ合うも相手となる存在の認識に違いが生じる。
交流の話。エリーはアスターと壁に落書コミュニケーションで交流する。顔を合わせず二人で絵を重ねて世界を完成させる過程は愉しく歓びに満ちている。二人の知性や性格を表す手段として効果的、また二人の距離感も心地好く好感度は大。
表現の話。ポールは意を決してダイナーでアスターへの告白に望む。エリーは複雑な想いで車中から心配そうに偵察。彼女とアスターのメッセージが外壁に映し出され彼が狼狽する場面は喜劇としても斬新であり秀逸、今後のメール表現手段として有効。
伝達の話。父エドウィンは英語障壁、ポールも英語は苦手と話しエリーも内気で友人との会話を楽しめない。メールや手紙による駆引きや訂正可能な中での表現は得意、好意を持つエスターの前では勿論口数が極端に少なくなる為、絵画や音楽や表情が活躍する。会話不全に苦しむ現代の時代性を偲ばせる。
感動の話。ポールは自分の言葉でアスターに告白する自信が無いから代筆を依頼。しかしアスターが彼と一緒に居たい決め手としたのは彼の不器用ながらも懸命に向き合う姿勢であり真摯なる言葉。自分の人生から滲み出る言葉は何時の時代も他人の心を動かすもの。唇よ熱く君を語れ。
地獄の話。エリーはポールやアスターに出会い他者に苦しみながらも両者の視線により自分の価値や存在の意義に気づかされる。自分自身を気付かせるものは自分に向ける他者の視線。彼女は教会で自分の秘めた心の声を言葉にして自らを解放する。この瞬間、我々は感動的な歓びに包まれる。
馬鹿の話。本作は引用や模倣を禁ずるものではなく他者の言葉を借りつつも自分の言葉を見つける必要を提言、過去の名作や歴史に敬意を表しつつ自分で独自のメッセージを持ち物語を紡ぐ様に我々に問いかける。終幕に劇中映画の恋人同士での電車追掛場面をエリーとポールが再現する。エリーは両者を馬鹿と発言したが自分で行動すれば何故だか涙は止まらない。
4スジ5ヌケ4ドウサ5テイジ4コノミ