
PERFECT BLUE
★★★★
原題#PERFECTBLUE
製作1997年/81分 #今敏
主演は未麻#岩男潤子、ルミ#松本梨香、田所#辻親八、守#大倉正章。
主題は未麻の繰り返される台詞「あなた誰なの」。未麻は撮影待ち時間に必死に練習する。幾度となく繰り返される言葉は持つ意味を変えながら観客に様々な問い掛けを行う。
見所は窓の虚像。電車や自宅の窓にPCのWindows、そこにはHP「未麻の部屋」で他人が彼女の日記を付ける。監督は本当の私など何処にも居らず自分主張によって成り立つものではなく周囲の人間により規定されるものと語る。未麻は自身のセルフイメージを引き裂かれ激しく葛藤、次第にアイドルの幻想に悩まされ自己の虚像を見始める。
原作は#竹内義和「パーフェクトブルー 完全変態」。監督は現在の自分より自分らしい存在がネット上に生み出されているというアイデアから「今の私」と「過去の私」の対立構図やアイドルがイメージチェンジを許せないファンに襲われる内容として、アイドルが急激な環境変化やストーカーの中で内面から崩壊する見方に改編する。レイティングはR15、外国の殆どは18禁。本作の入浴場面は#ダーレンアロノフスキー「#レクイエムフォードリーム」の元ネタ。彼はその為に本作の実写化権を購入、彼と監督は01年に対談、彼はオマージュを直接伝える。
仮面の話。監督は本作をペルソナの話と語る。冒頭カメラは戦隊ヒーローショーで文句を言いながら走り去る子供達からアイドルオタクを捉える。子供達は仮面のヒーローをテレビとは違うと言うがアイドルも満面の笑顔と華やかな衣装の仮面を纏う。虚構と現実が交錯する世界、必要なのは仮面の外見か真実の中身かを問掛ける。
改編の話。監督は主題を犯人が如何に狂った人間か、からアイドルがストーカーに狙われる中で如何に内面が崩壊するか、に変更する。劇中劇「ダブルバインド」は流行便乗のドラマ業界へ批判を込めつつ曖昧な境界線と夢や現実の交錯を加え犯罪に走る極端なオタクを登場させ物語を紡いだ。
二面の話。鏡の持つ二面性は重要なメッセージとなる。後半の追跡場面で未麻になりすましたマネージャーのルミは外見上は未麻、鏡の中では本人として映る。これは現実か嘘で鏡中が本物である事の暗喩、終焉が本質を物語る。車のバックミラーに写る未麻が語る「私は本物だよ」。鏡こそが真実を写し出す。
流行の話。本作は本当の自分について現代的な視点で捉える。最後に主人公が鏡越しに台詞を言うのは、人生とは何度も同じことを繰り返して成長するもので正面から捉えて確定する事を避ける意図。製作当時の流行語となる世紀末、ストーカー、ネット等を積極的に取り入れる。
四方山の話。未麻はマッキントッシュパフォーマでネットにアクセス、当時販売のオールインワンデスクトップPC。「誠のサイキック青年団」は竹内義和と北野誠によるラジオ番組。大友克洋が熱烈リスナーの為に採用され北野も本作にレポーター役で出演する。
理解の話。未麻は劇中劇となるドラマ「ダブルバインド」で多重人格に悩まされる。劇の内容は本当の自分とは何かであり、全体的には本作全体とドラマ全体、部分的には現実の未麻とドラマの役柄と繋がりを持ち始める。観客はどれが現実かドラマか夢想か妄想か理解不能に陥る。
自己の話。未麻は演技が好評な為に事務所が説得した結果、希望したアイドルの道を諦め女優の道を選ぶ。華やかな舞台と地味な生活の対比がペルソナの意味を示唆する。彼女は元アイドルの心象に苦しみながらもレイプシーンに体当たりする努力で演技を評価され成功を修める。しかしファンは女優の仮面を許さず未麻の自己イメージも分裂を始める。
悲劇の話。本作は現実と妄想とドラマが混濁し混沌を見せる。これら全てが同程度に配分し演出されて観客へ提示される。現実は虚構でアイドル未麻、マネージャールミ、ストーカー内田が各々で違う現実を持ち、それがもたらす悲劇を描いている。
揺動の話。マネージャールミやストーカー内田の現実はアイドル未麻の世界、しかし未麻は自分の現実を発見できるかもがいており求める部分が異なる。情報が溢れる現代は他者から個人が認識される事が重要とされており無数の現実が混濁する。それ故に自己の揺らぎが発生する。本作には現代でどう生きるべきかのヒントが隠される。
4スジ4ヌケ3ドウサ4テイジ3コノミ