
Morte a Venezia(モルテ・ア・ヴェネツィア)
★★★★★
1971年/131分 #ルキノヴィスコンティ #ドラマ
マーラー5番アダージェットの甘美な旋律、印象派の如き柔らかな画創りを以て、人間の心に潜む業の深淵を露にする。映画芸術の最高峰、ヴィスコンティ美学を堪能せよ。
砂時計の話。無常にも時は進む。アッシェンバッハは旅の始まりに白粉、口紅で若作りをした者を蔑視するが、旅の終わりには、自らで厚化粧を施し、美少年タジオ鑑賞に通ってしまう。時計に始まり、浜で果てる彼の運命は、音も無く掌中から零れ落ちる砂の如し。砂がなくなって気づくのはお終いの頃だ。
死に場所の話。老作曲家は、妻子から豊かで目映いばかりの時を与えられたが、それはもう失った。浜辺でしなやかにポールダンスを舞う美少年に触れたいが、出来るのは指を咥え眺める事。娼館で時の逆送を試みるが、待ち受けるのは己の不能さ。作曲家仲間と芸術論を交わすが、気づくのは才能の限界。八方塞がりでベニスをただ彷徨い、死に場所を探す。
コレラの話。侵された町を隠すようにベニスの町に真白い消毒薬が散布される。若さや愚かさを隠すように老作曲家は白粉を塗り重ね、紅を差す。コレラは彼の心に巣食う魔物であり、逃れたい現実だ。
陽炎の話。流れ落ちる染髪剤は醜く痛ましい。彼は手に入れられなかった物を追い求めつつ、万感の想いで昇天する。薄らぐ意識の中、遥か彼方に写るのは、永遠なる美。老作曲家は、命と引き換えに、遂に欲しかった物を掌中に収めたのである。
5スジ5ヌケ5ドウサ5テイジ5コノミ