
Chernobyl Heart
★★★
2003年/60分 #マリアンデレオ
主題は青年の一言「俺もそうやって死ぬんだ、とんだ犬死だろ」。出来る事は声を挙げ行動する事、叫びはフィルムに標される。見所は甲状腺癌手術の傷跡「ベラルーシの首飾り」。原本はオリジナル。04年アカデミー短編ドキュメンタリー映画賞受賞、06年には国連総会で放映される。
原因の話。事故は86年4月26日1時23分に現ウクライナ、旧ソ連のチェルノブイリ原子力発電所4号炉で発生する。放射性物質は2日後にスウェーデンのフォルスマルク原子力発電所の職員から高線量の物質が検出され発覚、北半球全域に拡散し日本では1週間後に雨水から確認される。92年IAEAは安全文化の欠如を原因とした。
影響の話。00年追悼式典で事故処理従事者86万人中5万5000人の死亡が公表される。食品汚染は放射性物質がリビアで缶詰、英国で羊、フィリピンで粉ミルクから検出され、レバノンでは輸入羊200頭の盲目化が発見される。日本政府は原子炉が米国型の為、問題なしと主張も広河博士は米国では格納容器に欠点との見解が出ていると反論する。
心境の話。ウクライナ、ベラルーシ、ロシアを放射性降下物が汚染する。現在も原発から半径30km以内は居住が禁止され北東350km以内には高濃度汚染地域のホットスポットが局所的に100箇所以上も点在、此処では農業や畜産業等、生産行動が全面的に禁止されている。この地域に住み続ける住民の目、原発事故後初めて故郷に帰る青年の目を通して被曝者の心境が露になる。
遺言の話。青年が淡々と語る「近親者の10人が癌で死んだ、放射能とは無関係と言われる事を俺が信じると思うか」。魂の叫びとなるこの事実をカメラはただ淡々と記録する。彼は1年後、27歳という若さでこの世を去る。この行動の記録が彼の遺言書だ。
雄弁の話。生まれながらに重度の疾患を持つ子供達、ベラルーシでは現在も新生児の85%が何らかの障害を持って誕生している。監督が切々と語る「チェルノブイリ原発事故を題材に映画を撮った私には福島原発の事故は悪い夢の様に思える。今はただ福島が第二のチェルノブイリになる前に収束する事を切に祈る」。映像は雄弁だ。
人間の話。放射能は目に見えず人体への被害も解明されないブラックボックス。何十年も残留放射能と共に暮らすウクライナやベラルーシの人々は甲状腺癌に侵された何千人もの若年世代を前に本当に原発が安全と言えるかの選択に迫られている。これから丁度、四半世紀後に福島第一原発の惨事が勃発、残念ながら人間は懲りないし振り返らない生き物である事が証明される。
監督の話。監督はアディロッシュ主宰のNGO団体「チェルノブイリ子供のプロジェクト」の支援活動に同行しウクライナ、ベラルーシを歴訪、チェルノブイリ原発事故による子供達への影響をフィルムに収める。この地域の子供達はチェルノブイリハートと呼称される変形した心臓を与えられて誕生する。彼等は生後も心臓疾患や放射線障害に苦しみ行き続ける。彼は08年にもチェルノブイリ原発事故の短編映画「ホワイトホース」を制作している。
発言の話。インタビューではベラルーシの新生児死亡率は他の欧州諸国の3倍、原発から約80kmのゴメリでは事故後に甲状腺癌発生率が1万倍に増加したという異常値が告げられ、ゴメリ市立産院主任医師の健常児が産まれる確率は15~20%位という衝撃の発言が飛び交う。我々はこの事実に目を背けてはならない。
価値の話。現実に目を背けてはならない。カメラは喉に生々しい傷痕が残るティーンエイジャーや先天性奇形により捨てられた水頭症等の乳幼児の姿を捉える。ロッシュは孤児達のケアに努めながらも熱弁を奮う「こうした実態が間違いなく因果関係を語る」。何を考えどう行動するかで人間の価値観は生まれる。
4スジ3ヌケ3ドウサ3テイジ2コノミ