
Deep Cut
★★★
2019年/152分 #園子温
主演は丈#椎名桔平、シン#満島真之介、妙子#日南響子、美津子#鎌滝えり、ジェイ#YOUNGDAIS、フカミ#長谷川大、茂#でんでん、アミ#中屋柚香、アズミ#真飛聖、エイコ#川村那月。
主題は美津子呟く一言「ちょっと好きだった」。彼女は皆を嫌いと罵るが心の奥底では求めている。愛憎は表裏一体、本作の英題名を直訳すると「愛の森」で邦題名とは反意。
見所は妙子と美津子が演劇部員と自殺を図る場面。二人は生き残るが妙子は足に障害を抱え美津子は引篭生活に入る。
原本はオリジナル。北九州監禁殺人事件から着想、事件は98年に発生し02年に発覚する。
実際の話。主犯格の松永太と内縁の緒方純子が3家族8名を監禁し金銭強奪に拷問、被害者同士で罵倒と虐待を繰り返し殺害した事件が基。検察は鬼畜の所業と非難し最高裁で主犯の死刑と共犯の無期懲役が確定。報道は自主規制を敢行、理由は残酷過ぎる事と家族殺戮により被害者遺族が訴え難かった事。現場は状況次第で加害者が被害者、被害者が加害者となる凄惨な状況であった。
出逢の話。シンはジェイ、フカミと意気投合、ぴあFFグランプリを目標に自主映画製作を開始。シンは童貞の為、2人に女性を紹介すると言われパンクの妙子に続き清楚な美津子を紹介される。妙子と美津子は共に演劇部員でエイコに好意を抱く恋敵。部内ではロミオとジュリエット公演決定、ジュリエット役の美津子はロミオ役のエイコにキスされ恋に堕ちるがエイコは直後に交通事故で他界する。
出逢の話。美津子に村田丈と名乗る男から電話が入る。借りた50円を返却する為に会いたいと言い彼女は拒否するが丈の誘惑に負ける。丈は高級な車とスーツで参上、リングケースに入れた50円玉を渡し微笑む。忽ち彼女は心を奪われる。
危険の話。シン達は偶然にも二人の様子を撮影、妙子は丈を見るなり奴は危険と言い放つ。丈は姉の婚約者でありながら妙子に迫り関係した男、金銭目的で尾沢家に近付き金が無いと判れば姿を消す悪党。シン達は村田に興味を持ち彼を題材にした映画製作を決める。
疑惑の話。シン達が丈のライブに訪れると美津子も来場しており妙子に悪態をつきまくる。会場は女性のみ、その異様な光景にシンとジェイは別の意味で彼を尊敬し始めるが美津子の体の傷を知り丈が連続銃殺事件の犯人と疑い始める。丈はシン達に本人役での映画出演を熱望する。
辞退の話。丈は信用金庫で製作費用の貸付を依頼し断られ暴行で指名手配。当初ジェイが監督も丈が指揮を執り始め交代、フカミは逃亡。シン達は森の屋敷に移動し撮影続行、丈は過激さを増しジェイは離脱を要求、逆に美津子に殺される役を命令される。
下僕の話。美津子はジェイの首を本気で絞めて殺害。シン達は動揺するが丈は冷静に死体の分解と投棄を命令。シン達は従うが妙子は異常性を感じて逃亡。丈達は彼女の実家へ移動し両親に人殺しの事実をばらすと強請り両親は彼の下僕と化す。
連鎖の話。丈は一家を通電棒で支配する。反復する暴力、撮影と飲酒の日々が続く中、丈は美津子の妹アミを可愛がる。美津子は邪魔者扱いで自殺や逃亡を図るが失敗、妹から通電棒で虐待され流産する。医者は体の痣を見て警察通報を進言するが丈は上手く誤魔化す。彼女の入院中も暴力は続き父は自殺、母は妹より殺される。
手紙の話。美津子の退院祝いで丈は皆をピクニックに誘う。森の奥で美津子は突然手紙を朗読、手紙には丈の正体に気付いていた事やシンが連続事件の犯人である事、自分は男性経験が無い所か淫乱でエイコや複数男性と関係していた事を暴露する。
微笑の話。シンは美津子から先に妹を殺す様に懇願され妹から姉の順番で発砲。丈はシンから殺人を促されるも拒絶、シンは自分の手を汚さない丈を非難し射殺を試みるが話術に翻弄され逃亡を許す。丈はヒッチハイクに成功するが運転席の女性はエイコ。丈が行先を尋ねると彼女はHELLと言い薄笑いを浮かべる。
支配の話。尾沢家姉妹は過干渉や友人等の裏切り、両親は世間体という心の闇を抱える。丈は一家から見れば寂しさや欲求を満たす救世主。ジェイやフカミの様に希望を追う者は瞬間的な迷いは有れど、その異常性に気付き離れる。またシンは支配された振りをする強かな男。支配からの解放は健全か狂暴の二択。
理想の話。ロミオが丈とシンの前に現れる。彼女は理想が偶像化された幻影。シンは道端、村田は車内で出逢い、その距離感が彼等の本質を物語る。理想にはシンが遠い存在で丈は近い存在、美津子は不安定で朧気な存在。ロミオは丈に行き先が地獄であると最終告知、これは理想を追い求め自分勝手に行動すれば行き着く先に地獄が待つと示唆する。
嗜好の話。本作は園子温オマージュに溢れる。ロッカーや集団自殺は「紀子の食卓」、彼女達の名は「奇妙なサーカス」、村田姓は「冷たい熱帯魚」、洗脳は「愛のむき出し」、解体は「冷たい熱帯魚」の引用。満島演じるシンは監督の性格反映、椎名も園をモデルにして冷酷ながら洒落気と機知に富んだ人物像を作り上げる。
3スジ3ヌケ4ドウサ3テイジ3コノミ