最後の追跡

Hell or High Water

★★★
2016年/102分 #デヴィッドマッケンジー

主題はアルベルトの一言「昔は白人がインディアンから土地を奪って今は銀行が白人から土地を奪う」。銀行が返せない借金を背負わせ民から土地を強奪する現状をテキサスの人々は怒っている。その為、銀行強盗をする兄弟には協力的、テキサスにはテキサスの正義がある。

見所は追手を撒く為に別々の方向へ進む兄弟、別れ際には兄弟が愛の告白「愛してるぜ」

原作はオリジナル、Netflix作品。主演はマーカスハミルトン#ジェフブリッジス、トビーハワード#クリスパイン、タナーハワード#ベンフォスター

墓場の話。本作は帰還兵のPTSD問題やリーマンショックのサブプライム問題のみならず、銀行強盗という古い小さな犯罪を通して米国の地域社会という大きな問題を炙り出す。銀行が経済の旗の下、石油という利権の為に貧困に喘ぐ庶民から財産を奪い取る熾烈な現実に呆然とする。米国はかつてアメリカンドリームと表現された希望の新天地、今は絶望の墓場へ成り下がった。

置去の話。広大なテキサスの自然と狭小な牧場の家族は存在価値に於いて鮮やかな対比を生み出す。この点から見て本作は時が止まった世界ではなく時代から置去りにされた世界を描いている。孤立化を生み出すのは個人か社会かの答えは此処には無い。

残骸の話。マーカスは引退間近のテキサスレンジャー、テキサス州で銀行強盗が多発しネイティブアメリカンの相棒と捜査に乗り出す。田舎町は活気が奪われた世界で社会の残骸を現している。イラク戦争後の支援やリーマン後の返済等の問題が帰還兵の落書と高利貸しの看板で表現される。強盗を繰り返す兄弟トビーとタナーも借金苦で先祖代々の土地を銀行に差押えられている。

重厚の話。脚本家Tシェリダンの視点は冷静ながらも緻密で暖かい。マーカスは毒舌ながらユーモアを交え兄弟の動機も推察し捜査を推し進める。ジェフは性格は物静かで性質は脆弱だが頭脳は明晰、タナーは無法者で突発的だが人一倍思い遣りに溢れている。主要人物の個性は多層的で人間に厚みを持たせている。

邪険の話。過去の西部劇で敵対した白人とインディアンが共にカウボーイのバディで登場するのは注目。マーカスは宗教や血脈を、アルベルトは年齢や性格を互いに罵倒するが二人は見えない絆で結ばれている。マーカスは一方的に嫌な仕事を押し付け暴言を吐きまくり相棒を邪険に扱う。しかし彼の悲劇を前にして動揺し、復讐の為に真相追求を決意し執拗に追い掛ける。

仕組の話。貧困の連鎖を断ち切ろうとテキサス魂を発揮した兄弟は返済相手の銀行から自分達の名誉を取り戻すべく目には目をの戦略で作戦を実行する。カーチェイスの相手となる地元警察や自警団は何も分かっていない。不条理な社会システムに抗う姿はアメリカンニューシネマの英雄「ラストショー」の若者と重なる。彼がレンジャーを演じるのは殊更感慨深い。

強靭の話。テキサス市井人の精神力が際立つ。警察からのチップ徴収命令も生活の為と拒絶する女、店でこれ以外は頼まないと啖呵を切る女、犯人逮捕の協力要請も発見次第の銃殺を豪語する男、安全を省みず銃を乱射する自警団等、テキサスが銃社会である事や住民の自負が高い事が伺い知れる。

石油の話。テキサスは石油に依存している。自分の土地から石油が出る事が貧困から這い上がれるか否かの分岐点。農業は後継者もおらず重労働を強いられる。石油が出れば裕福、出なければ辛苦に縛られた環境は過酷である。地域ならではの視点で米国社会を鋭く抉り出す。

正義の話。この土地はインディアンから白人が略奪した歴史があり、現在は農場主から銀行家が略奪する道筋を辿っている。農場主は土地を担保に銀行から無理な借金をして土地を奪われる。返済が滞れば残金が担保価値を下回る場合でも取り上げられる仕組み、余剰分返金の発想は一切無い。兄弟は奪う存在である銀行から盗む存在として自分達の正義を実行する。

伝染の話。搾取は緩やかに侵攻する。それは絶対的では無く、より厄介な相対的貧困。ハンバーガーは買えるが家賃は払えない、ローンは組めるが貯蓄は出来ない類いの問題。日本の貧困率は約16%で先進国35ヵ国中第6位、世界の中では米国に次ぐ順位で6人に1人が貧困に喘いでいる。トビーが言う「貧困は代々続く病気みたいに親から子供へ伝染する」

復讐の話。本作は米国の貧困を背景に搾取される側が搾取する側を退治する現代版西部劇。撲殺も銃撃も無く頭脳による復讐戦はモダンウエスタンと呼称され「ウィンドリバー」「ボーダーライン」と並ぶシェリダン復讐三部作の第2弾に位置付けられる。シェリダン自身もテキサスの農場で生まれ育っている。

4スジ2ヌケ4ドウサ4テイジ3コノミ

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