イン・ザ・トールグラス -狂気の迷路-

IN THE TALL GRASS

★★
2019年/101分 #ヴィンチェンゾナタリ

主題はトービンが叢から叫ぶ「助けて此処から出られないんだ」。路肩で車を止めると聞こえてくる子供の声は悪魔の誘惑、人類が時間を掛けて生み出した死の罠である。

見所は石碑の全貌。まるで地獄に繋がっている様な人間共。石碑の根元には呻きながら悶え苦しむ歴史そのものが封印されている。

原作は#スティーヴンキング#ジョーヒル 共著の同名小説、Netflix作品。主演はロス#パトリックウィルソン、ベッキー#ライズラデオリヴェイラ、トラヴィス#ハリソンギルバートソン、カル#エイヴリーホワイテッド

義務の話。人間が一度その世界に足を踏み入れれば狂気へと駆り立てられ自分を見失い他者を攻撃する。この話は人類の歴史そのもの、暴力と殺戮の繰り返しが人間の宿命であり、その流れを断ち切る事は不可能に近い。それでも人間は生命を守る責務を担っており、この力が人類を負のループから脱却させる原動力となっている。

石碑の話。それは触れた者に全知全霊を与え高揚感を生み出す。その力に魅せられ取り憑かれれば他者への強要が始まり、碑に触れさせないと気が済まない中毒を発症させる。他人が従わなければ力で捩じ伏せるか死あるのみ。石碑は触れた者に人類の負の歴史を刷り込み無限のループに取り込む。

他山の話。時代が変われど人類は勝手に地球の支配者として君臨し幾度となく同じ過ちを繰り返す。時間の観念が存在しない叢の中でも同じ出来事が悪夢の如くループを始める。人はこれらを頭では間違いと理解しても結局は権力を行使し過程を無視して我儘を繰り返した。叢への取り込みは禍根、石碑が他山の石となる。

迷路の話。劇中でカルとベッキー兄妹は叢に何度も足を踏み入れ、カルは同じ場所で何度もロスに殺される。原住民的集団の登場も人類が同じ事を繰り返してきた藪の中の隠喩となっている。人類の歴史こそが副題ともなる狂気の迷路と合致している。

過失の話。全ての登場人物は心に闇を抱え物語が進むに従い、その闇が露になる。ベッキーは妊娠中も育児の覚悟は無く出産後は養子縁組みを決意、トラヴィスは子供に責任が持てず堕胎を勧告、カルは妹を偏愛しトラヴィスに憎悪を抱き最終的には彼を殺害する。全員が何らかの過失を犯している。

肯定の話。ロスがトラヴィスに対して自分に似ていると衝撃の発言をするが、これは彼がベッキーに堕胎を勧めた事実に起因する。ロスは自分の意に反する大人を皆殺しにそて、トラヴィスは自分の意に反した子供を堕胎で葬り去った。その形こそ違えど意は同じ。殺人に肯定的な姿勢が二人の共通点である。

父性の話。本作は人類の歴史という壮大なテーマの下に個人の感情や背景を散りばめて人間の業を浮かび上がらせる。トラヴィスは叢で意思を持ち始めた。ベッキーと行動する事が彼に父親の実感を与え、子供を守る父性を目覚めさせた。彼は自らの意思で石碑に触れ脱出方法を掌握、身を呈してトービンの命を救った。

選択の話。トラビスに連れられてトービンが導かれたのは救世主の黒い岩の教会。その奥には開かずの扉がある。この扉を開けるのは相手を助ける正しい選択をする事。真の救済が成立すればトービンは本物の救世主となる。

基督の話。トービンはベッキーに命を救われ教会で目覚める。教会での覚醒は背景として基督教の存在が強く感じられる。彼は叢の中に救助の為に向かうベッキーとカルを引き留め二人に預言を与えた。トービンが預言者に変貌した事で兄妹は一命を取り留め、此処から二人の新たな未来が創られる。基督教義で堕胎は認められない点でもこの教会の存在は重要である。

生贄の話。石碑の表面には象形文字の様な刻みが徵され赤子が生贄に捧げられる模様が描かれる。人類の歴史に於ける生贄は無垢なる者、幾度となく繰り返された人類の蹉跌が此処に再現する。米国の中心という言葉からもインディアン大虐殺等、国家としても血塗られた歴史がある。

回帰の話。叢の出来事は永劫回帰的。ベッキーは負の連鎖から脱却し我が子を育てる決意を見せ、トラヴィスは叢の中を彷徨し静かに息を引き取る。目潰しで殺害されたロスも自殺を選択したトラヴィスも叢の外で目覚める。暴力と殺戮から脱却できないロスは再び叢に迷い込むが、トラヴィスは地獄のループから脱却、ベッキーと共に未来に歩みを進める。

2スジ1ヌケ2ドウサ3テイジ2コノミ

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