
愛しのアイリーン
★★★★
2018年/137分 #吉田恵輔
主題は愛子が岩男を呼び止め掛ける言葉「ゴメンうち本気だと困るんだわ」。見所は岩男は路上で車に跳ね飛ばされすぐに起き上がり繰り返し絶叫「おマンゴォー」。原作は新井英樹の同名漫画。作者は日本の少子高齢化、嫁不足、外国人妻、後継者問題といった社会問題に真っ正面から取り組んだ作品と語る。
夫婦の話。新潟の片田舎に老いた両親と暮らす宍戸岩男。彼は同僚愛子に片思い、関係進展のその時、彼女と店長の肉体関係を知る。自暴自棄となった彼はフィリピンに出立、金銭介入の結婚を果たす。岩男と妻となったアイリーンの目当ては彼が性交、彼女は金銭。二人の愛情は打算的で双方向とはならない自慰行為である。
母親の話。母は息子を溺愛し息子の為に奔走、女衒の塩崎に嫁の売買を相談し新たな縁談話も画策する。その頃、息子は妻に愛情を感じ始めている。二人の愛情は虚無的で双方向とはならない自慰行為である。
両親の話。父は母に愛を込めてロッキングチェアを製作するが母は呆け老人の気紛れとしか感じていない。母が新婚旅行の記憶を呼び覚ます頃に父は既に昇天している。二人の愛情は惰性的で双方向とはならない自慰行為である。
性交の話。岩男とアイリーンは殺人の秘密を共有し晴れて結ばれるが結局二人は互いを理解していない。性交をしても自己満足に過ぎず相手には伝わらない。侘しさを感じ愛を与えても永遠に共有出来ない悲しさを蓄えながら生活は続いていく。母は夫婦の行為を覗き見し自分の股間を触り呟く「ツキのもん」。性交ですら一方的で双方向とはならない自慰行為である。
愛子の話。バツイチ子持ちの吉岡愛子は母を拒絶し女として生きる選択をする。愛を恐れ性行為を繰り返す事で自らの存在を肯定する。岩男は彼女が夫から平手打ちを浴びた瞬間、彼女と自分が同類である事に気付く。その現実を突きつけられ、自分が傷つかない為に愛の無い性交渉に逃避する。
狂気の話。岩男はパチンコ店に勤務する。パーラーは地方の人達には癒しの空間であり現実逃避の場所、同時に賭け事という搾取の象徴。散財を繰り返す事で安らぎが狂気に変わる。42年に渡る愛の不在が彼の安らぎを狂気に変える。彼は妻からも得られない安らぎを求め他の女性に金銭をばら蒔き続ける。
自慰の話。岩男は見合相手琴美の送迎中、寝ている琴美のスカートを捲り自慰を始める。琴美は其処から逃亡するが後日訪問、自分も週末に自慰行為をしている事実と逃亡のお詫びを伝える。その琴美に岩男は自慰を要求、琴美は自慰を始め岩男は彼女を押し倒そうとする。人間一皮捲れば皆同じ。
式典の話。塩崎は金銭による嫁取りを人身売買と責め岩男に暴行、岩男は結婚の洗礼を受ける。止めに入った妻の背後から突然銃声が鳴り響く、祝典のシャンパン栓が抜かれる。二人は塩崎の死体を山に埋め隠匿を図る、夫婦で取り組む初めての共同作業。これから彼等の本当の初夜が始まる。
堕落の話。岩男は愛情を金銭で得るが、結婚した事で真実の愛を見出し始める。悲しいかな人間は強欲、愛を入手すれば逆に疎ましさを感じてしまう生き物。夫婦の営みは次第に売春行為へと堕落、彼は他の女性との関係に真実の愛を見出だし始める。
刻印の話。妻との性交は殺人の忘却と欲求を解消する行為としてしか存在していない。ナイフはペニスを比喩する。彼は山中の木々に妻の名をナイフで何度も刻印、現実には入手不可能な愛を別の行動に置き換える事で欲望の解消を図る。
解除の話。一面の銀世界、妻も母も其処から逃れられない。人々の絶望感が積もり行く結晶の下に埋没し、閉塞感が声にならない悲鳴を挙げ沈黙が世界を覆う。母は雪山の祠で死を覚悟、嫁は止めようと希望を口にする「コドモイルド」。嫁は母を背負い来た道を戻る。母は嫁の背中で昔を思い出しながら満足気に悪態「使えねえ女だなオメエは」。帰り道で岩男の声が妻に届く「アイリーン愛してっど」。アイリーンは空を見上げる。愛の一方通行は解かれ3人は母と嫁、夫と妻になる。
3スジ4ヌケ4ドウサ5テイジ3コノミ