
One Child Nation
★★★★★
2019年/89分 #ナンフーワン#ジアリンチャン
ドキュメンタリー映画。本作は中国で79~15年まで施行された一人っ子政策が背景、中国の歴史で痛ましい章を鋭い明瞭さで探ると絶賛される。Dルーニーは貴重な記録でこの政府が管理する実験の暗黒面の沈痛でありながら恐ろしいイラストレーションと賞賛した。
主題は堕胎回数の質問回答「解らないけど5~6万の不妊手術と中絶手術をした」。多くの出産に関わった84歳助産師ユアンの言葉に戦慄を覚える。
見所は村民が政策を笑顔で冗句を飛ばしながら自己正当化する場面。計画生育委員のジャンは昔に戻っても又同じ任務を果たすと語り政策の正しさを主張、あれがなければ国は滅んでいたと振返る。監督の家族も同様で母や祖父が口を揃え国益の為と言う姿はプロパガンダの恐怖を顕在化させる。彼は呟いた「仕方がない」
現場の話。本作はサンダンス映画祭グランプリ等、世界に衝撃を与えた実態解明の実録モノ。一家族に一人の政策は表面上は合理的も実情は凄惨極まりない。監督ナンフーは自身もこの政策の中で生まれ米国移住後に興味を持って本作を完成させた。当事者すら政策の実態を知らぬ事に恐怖を覚える。
人口の話。日本は平成30年人口統計で出生数は過去最少の約92万人、出生率は1.42人と3年連続減少、少子化問題が深刻化しているが一方で人口増加も国家を脅かす状況に繋がる。衣食住の不足や移民の増加は人口爆発の危険を告げる。中国は本政策を79年施行、82年憲法に明記する。しかし15年廃止、此は何を意味するか考えるべきである。
主義の話。本作は監督の出自を探す自己記録としても成立、85年の自身体験も織り交ぜ如何にして政策が定着したかを解明する。此はマルサス主義に端を発する人口論を礎とする。彼は人口抑制無き場合、食糧不足で餓死もあるがそれは人間自身の責任で生存権の剥奪は当然、戦争貧困飢饉は人口抑制の為に必要で此等の人を社会は救済出来ず、すべきでも無いと唱える。
制限の話。実行の為に徹底したプロパガンダが敷かれる。看板や暦、お菓子に至る迄、国家教唆が始まる。計画生育宣伝委員のリュウは国から受賞される模範的村民、彼が政策舞踊の奨励を涙ぐましい地道な積重ねとして語り元村長ワンも認識の書換えの難度を語る。国益の為に出産は我慢して当然の思想を常識化する。
罰則の話。従わない者には罰が与えられる。高圧的で恐喝とも取れる警告スローガンを街中を賑わし反抗すれば家屋を破壊、役人が拉致し強制的に不妊や中絶手術を受けさせる。飴と鞭、プロパガンダと同調圧力が社会を意のままに操る悲劇。そこには非倫理的な実態が暴かれる。
殺人の話。ユアンは不妊手術は1日20件以上、豚の様に引き摺られる妊婦を沢山見たと生々しい現実を語る。計画生育委員のジャンは中絶した赤子は8か月前後でまだ生きていたと語る。中絶とは名ばかり、最早殺人の記憶となるが本人達に罪の意識は無く国家に貢献した者の誇りすら感じられる。
地獄の話。写真家ワンは決定的瞬間を記録する。それは医療廃棄物の黄袋に押し込まれゴミ廃棄場に放置された乳児の遺体。地獄は此で終わらず、跡継ぎとなる男児を欲する村民は女児の出産で道端に簡単に廃棄、乳児の遺棄が常態化し人身売買のシステムが構築される。元人身売買業者ドワンは1万人の販売を供述、電車で現場に向かい拾って施設に売る繰り返しの日々を語る。
支配の話。買取乳児は国外へ養子に出され相手はその事実を知らない。此処に国家ぐるみの個人情報も偽装した巧妙なネットワーク化された養子ビジネスが成立する。ロン設立リサーチチャイナが特定した真実は一国政策が世界的人身売買の温床に波及する事実を露にする。彼自身も中国から養子縁組み、政策の闇は大量殺戮、何時の間にか中国勢力は悪魔の支配を広げる。
報復の話。人口戦争の現実は民族や家族を失う国家の自傷行為だが此処に国家反逆は不可能という無力感も浮上する。人生の決断を全て人に決定されれば結果責任も感じなくなり洗脳は暴力と更なる洗脳を生む。監督は製作中止を進言され狂気を孕んだ暴言を受ける「あんたの母親が報いを受ける」
蔑視の話。政策は終われど彼女達の傷跡は消えない。自責の念を抱える助産師ユアンは現在、不妊治療に従事し殺めた命を償う。米国少女は人身売買で生き別れとなった双子の姉を想い過去に向き合う。愚策を通り越した殺戮の根底には女性蔑視の思想がある。長老達が口々に言う言葉は損得勘定「男児は家を継ぐ者、女児は他人の者」。今も女性達は子供を産む機械として扱われてる。
価値の話。中国は二人っ子政策に変換したが本質は変わらない。日本も優生保護法の下で不当に不妊手術や人工中絶を強要。中絶禁止は政策とは真逆に見えても本質は同じ、政府が個人の権利に介入する不当関与。政治家はお気楽に発言「女性は3人子供を産め」。出産する女性は社会の為のモノでは無く出産自体も自由、子供の価値は性別では決まらない。権利の保障が最優先されるべきである。
5スジ4ヌケ4ドウサ5テイジ5コノミ