パラサイト 半地下の家族

Parasite (기생충)

★★★★★
2019年/132分 #ポンジュノ

主題はギドク発言「プランを建てない事が最高のプラン」。好意にも悪意にも取れる多様性を内包する意味合い。見所は終幕の全てを洗い流す雨。地上と地下が渾然一体と化す様はアルマゲドンであり圧巻場面。

象徴の話。下流キム家と上流パク家の二つの異なる階級が象徴的に描かれる。現代は中流層が消滅し最下流層が新たに発生している時代、普通の人々が特殊な状況下に置かれ人生を大きく左右させる。父親は寂寞なる存在で無益の象徴、山水景石は一家の運命を変える思想の象徴、内向的なグンセが凄惨なる暴力に出る不条理は悲劇の象徴。

監督の話。監督の現代社会に対する洞察は成熟しており哲学的、本作は社会システムのあり方を思索させ警告する。匂いと階層は何れも目に見えないもの、二つの壁を結び付けた功績は計り知れない。本作は天国と地獄、グエムルはゴジラ、スノーピアサーは暴走機関車の影響を受け、彼はスノーピアサーを廊下映画、本作を階段映画と規定している。水平と垂直の違いはあれど構造的には同類。

迂回の話。垂直運動を見せる視点は彼等の立場を隠喩する。自宅では窓越しの地上から部屋の居間へ下降し、富豪宅では玄関から邸内階段を経て子供部屋への階段を使い上昇する。富豪宅から大雨の中、帰宅する家族は訪問時と反対の道筋を辿り物理的な距離を見せつつ上流から下流へと進み自分達の居場所へと還って行く。

住居の話。半地下は北朝鮮の防空壕が由来、晒されるという意味での対象は路上に面する半地下も、全面ガラス張りの豪邸も同じ。単に好き嫌いの問題。前者は立ち小便や消毒薬の毒性を浴び、後者は愛想付き合いや欺瞞の毒性を浴びる。繋がらないWi-Fiや高床式の便器は世間からの阻害や無視、吹き上げる地下水は家族の不満を暗喩する。

恐怖の話。豪邸は広莫なる空間、キム一家は隠れ場所を無くし机下へ潜伏する。大人のかくれんぼは静寂からの反動と同時に発見時の惨状を想像すると図り知れない恐怖を生み込む。貧民の富豪宅潜入は観客も含めて興味の対象として成立し、覗き見効果も挙げる。富豪と貧民が互いの臭いまで嗅ぎ合う程に近づき、夫婦の営みの現場にまで入り込む。ドンイクは度々「度を越すな」と叱責するが、富豪視点では臭い、貧民視点では発言が各々の領域を浸食する。

恥部の話。闇の奥となる地下室は秘密が渦巻き人の恥部が凝縮される場所、反意で楽園とも受け取れる。桃毛の飛散や人物感情の推移等、モンタージュ、スローモーションの駆使と伏線の張り方はヒッチコック的で連鎖する印象が想像を生み出し恐怖を創造する。半地下は半地上、地上で日差しを浴びたいと願う反面、地下へ墜落する不安も抱える。ギテクとグンセの事業失敗は隠したい過去であり皆同類を提示する。台湾カステラ事業の破綻はTVのデマ報道が契機となり流行が終焉を迎えた。

愛情の話。本作は上流下流の愛の違いも提示する。ギテク質問「奥様を愛してらっしゃるんですね」にドンイクは序盤では嘲笑、終盤では激怒の感情で回答する。それは愛そのものを否定する。ダヘは家族から蔑ろにされ愛情に飢えている。手を引き脈を取る力強さに惹かれ恋愛感情が芽生える。

縁由の話。両家の息子はボーイスカウト出身者、地下からモールス信号を受け取るがギウはメッセージを正しく受信、ダソンは見過ごしてしまう。気付きや反応は親子の繋がり度合いと受け止められ、稀薄な関係性では何も起こらない。

世代の話。監督は民主化運動に関わった三八六世代で彼等は権力に暗部ありきの思想で世間を諦観する。また南北分断や徴兵制度に儒教神話等のストレスが若者の判断を狂わせ無気力や怠惰を加速させる三放世代を生み込んだ。チャパグリによる三家族への比喩は物語を牽引する。

興味の話。富豪は基本的に他者に無関心。仮装インディアンは原住民への差別を想起させるが、これは単なる象徴でドンイクは先進国に対して憧憬や幻想を抱くも他国の背景には無関心、子供用の米国製テントを前に防水だろうと口にするだけで理解せず、しようともしない。

尊敬の話。最下流の人達が金持ちを神格化する流れは顕在化している。そこにはすがるものがない社会空洞化の現実がある。リスペクトと叫ぶ男を異常者と捉えたり冷めた眼で見ているとしたら平和呆けしている証拠、明日は我が身だ。

5スジ5ヌケ5ドウサ5テイジ5コノミ

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