アルキメデスの大戦

The Great War of Archimedes

★★★
2019年/130分 #山崎貴

主題は情熱と協働。背景には海軍内の空母派と戦艦派の面子をかけた攻防戦がある。見所は平山が捻り出す大和命名の由縁。原作は三田紀房。Yジャンプ連載漫画を大胆アレンジ。建造物の鉄総使用量から建造費を見積る方程式には些か無理がある。

協調の話。櫂直と田中正二郎は戦艦建造の見積りという難題を与えられ軍規に反し資料を収集しようとして海軍内で孤立を深める。性格は櫂が任意的で情熱溢れる天才型、田中が強制的で真摯な粘着性ある努力型。相反する両者の結束は終盤の協働により無限の化学反応を起こし奇跡を生み出す。

採寸の話。櫂の頭の中は数字数式に占有されており美しい物を見ると計測せずにはいられない。常套句「何て美しいんだ」で顕される様に彼は机に床、彼女の顔や芸者の胸に至るまであらゆる場所を携帯巻尺で測る。櫂は田中に「測りたくならないとは変わり者だな」と無邪気に語り、田中は呆れつつも歩幅換算で協力を始める。

同志の話。櫂直と平山忠道は同類。純粋無垢だが数差的且つ客観的、また彼等の正義は絶対的でなく相対的。平山は櫂の図面から新戦艦の大和を1/20スケールで製作し櫂をチームにスカウトする。平山発言「戦争を終わらせる為の拠りしろ、国民に負けを認めさせそれ以上の犠牲を出さない為の人身御供が戦艦大和」は威厳ある殺し文句。櫂は自らが産んだ戦艦完成の欲求に抗う事が出来ず参加を決める。

既成の話。冒頭、米軍の戦闘機による大和沈没の瞬間や落下傘避難からの安易な兵士回収は観客に戦艦不要論を植え付ける。物語は大和建造理由を縦軸、創造主の情熱を横軸に突き進んで行く。山本は櫂に衝撃の一言を叩きつける「巨大戦艦を建造すればその力を過信した日本は必ず戦争を始める」

終幕の話。設計者の本分は美の飽くなき追及とそれを形にする事に尽きる。そこに戦争等の外敵要因が関与する余地はないが、それを無視出来ないのが現実。彼等は創作した美の残骸を前に犠牲を顧みるだけで何も出来ないまま創造を重ねるだけ。櫂は大海原へ繰り出す美しき戦艦大和に感動しつつもその先にある崩壊と滅亡を感じて涙を落とす。戦争という環境下で意味を持たないと思われがちな学問が国を動かす事態に至るかは受取手次第。意気揚々と甲板を歩く山本艦長、複雑な表情で敬礼する櫂設計士、戦争中止を訴えた者達が開戦の張本人にいつの間にか変貌を遂げている。

3スジ3ヌケ3ドウサ2テイジ4コノミ

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