
The Housemaid (하녀)
★★★★
1960年/108分 #キムギヨン
主題は奥様チョンシム発言「マイホームなんて買うんじゃなかった」。見所は戸棚の殺鼠剤とバルコニー越しに覗く愛人ミョンジャ。原本は実際の事件からの引用。
曲者の話。真面目な音楽教師トンシクは縫製工場の合唱部教師で生計を立てている。献身的な奥様の内職で念願のマイホーム迄あと一歩、彼は家計を助けるべくピアノ教室を開講するが好印象の生徒キョンヒは彼目当ての曲者女。序盤から目に見えるものが全てでない現実が突き付けられる。
設問の話。内職疲れで奥様が倒れる。教師は信用する生徒に家政婦を依頼するが、彼女が紹介した女性は教室で煙草を噴かす不良工員、彼の信用は軽く裏切られる。本作に登場する若き生徒達は、奥様とは対照的で本能の赴くまま即物的に行動を重ねる。女性とは何かを問い掛ける。
人命の話。女生徒が自殺する。教師はラブレターを受け取り真面目故に会社に報告するがそれが結果的に自殺を誘発する。失恋や解雇が理由になるなら人の命に重味はない。この後も簡単に殺人や自殺をする人間達。命は確実に軽くなっている。
儒教の話。男性上位の家庭に乱入する家政婦が縦割社会の構造を根幹から揺るがす。豪雨の日に庭木に落雷した瞬間から彼の転落人生が始まる。家政婦は家に入った時から差別的な指示を受け子供達からも軽蔑の視線を浴びせかけられる。奥様が帰省するのを待ち彼女は全裸で教師を誘惑し復讐計画を実行する。
願望の話。妊娠中の奥様に続き家政婦も妊娠、愛人となった家政婦は旦那様に出産を宣言。彼は悩んだ末に奥様に相談、奥様は裏切られたにも関わらず愛人説得を選択する。本妻が選んだのは家族という個人ではなく家屋や生活という自らの願望。その為には手段も厭わない彼女の狂気は加速していく。
重複の話。愛人はようやく見つけた自分の居場所を守りたい一心で躍起になる。一夜の過ちとは言え旦那様から求められた悦びに縋る。その為には犠牲も厭わない彼女の狂気も加速する。何れも守るべきものを手放したくない気持ちに取り憑れ、なりふり構わず感情を撒き散らす。
狂気の話。異常性は生徒達にも蔓延している。彼女達は内緒話をして鋭い眼差しを教師に向けるが視線の先は彼ではなく男性社会。旦那様に片想いするキョンヒは望みが叶わないと知ると着用ブラウスを引き裂き「抱いてくれないなら襲われたって言いふらしてやる」とレイプと偽り彼に脅しをかける。
階段の話。二階で見下ろす者と一階で見上げる者には明らかな身分における上下関係が示される。ミョンジャの妊娠後は立ち位置から力関係も逆転した事が理解出来る。
色気の話。椅子に座ったトンシクに無理矢理迫って行くミョンジャ。椅子の足と二人の足が絡み合いやがて纏まりを見せ始める。想像こそが究極のエロス、滑る様な脚下を使った色気の表現は物語に色彩を持たせていく。
綾取の話。旦那様は誠実な男、浮気は気の迷いで本当は愛妻家、愛人との添い寝を強要され受け入れながらも「魂までは渡さない」と自己弁護する。女性は怖いが男性は誠実との極論も逆説的に女性の弱さや大胆さが浮き彫りとなる。征服は人間の根元的欲求で抗おうにも抗えない。冒頭で延々と続く綾取りは逃れられない現実を比喩している。
終幕の話。場面転換で教師再登場「男ってのは若い女が好きだよな。若い女に惹かれて破滅しちまうんだ。男はみんなそうだ」からの高笑い、斬新な幕切れには拍手。
4スジ5ヌケ5ドウサ3テイジ4コノミ