霧の中のハリネズミ/霧につつまれたハリネズミ

Yozhik v tumane

★★★★★
原題は#Ёжиквтумане
製作は1975年/10分 #ユーリーノルシュテイン

主演は語り#アレクセーイバターロフ、ヨージック#マリヤヴィノグラドヴァ、子熊#ヴャチェスラーフネヴィーヌィイ

主題は冒険鑑賞ではなく体験する所。枯葉の揺らぎやカタツムリと蝙蝠の緩急入り乱れた動作、大木の感触や水の冷たさ等、彼と一緒に観客は霧の中を彷徨う。#アレクサンドルソクーロフ 曰く「誠実で全く純粋な理想の人間の魂と世界観の状態である」

見所はあどけない風貌のハリネズミ。子供の様に純粋で森の中で見聴きするもの、出会うもの全てを感情豊かに自己表現する。彼の素朴な驚きや小さな感動が繊細且つ詩情豊かに描かれていく。

原作は#セルゲイコズロフ の同名絵本。制作はモスクワのアニメスタジオ、#ソユーズムリトフィルム、ソビエト連邦時代に設立された影響力の強いスタジオで代表作は雪の女王、チェブラーシカ。劇中のロシア語台詞はセルゲイによるもので06年ユーリイは同名著書を再執筆し自身とコズロフを著者名とした。

巨匠の話。ユーリイはソユーズムリトフィルムで#イワンイワノフワノ や#ロマンカチャーノフ に師事、#アレクサンドルペトロフ とは師弟で#セルゲイエイゼンシュテイン に影響されモンタージュを好む。彼のお気に入りはウォルトディズニー、フレデリックバック、ノーマンマクラレン、川本喜八郎、高畑勲、等。

影響の話。14年ソチオリンピックでロシアを代表するモチーフの一つとなりソビエト連邦の切手にも採用、09年ヨージック像がウクライナの首都キエフに建造される。#宮崎駿 はユーリイを最高のアーティストと評し本作を好きなアニメーションの一つに挙げる。

魅了の話。本作は#マルチプレーン と呼ばれる何層ものガラス面に切り絵を配置する手法で創作、幾重ものガラス面が作品に奥行きと立体感を生み出す。曇硝子を何枚も重ね表現した霧や本物の水による水溜まりや湖等、幻想の中に現実を取り込みアナログの限界を超えた自由発想で観客を魅了する。

制作の話。本作は切り紙を使用した作品で全体を覆う霧は微細な紙片を舞台上に置き1フレーム毎に少しずつカメラに近づけていく事で表現される。日本公開は同名タイトルで04年にユーリイノルシュテインの世界イベントにて正式に上映される。

四方山の話。ユーリイは87年の広島国際アニメフェスで初来日した際、同審査員の#手塚治虫 からサインを求められベレー帽を被るハリネズミを描く。手塚は「アドルフに告ぐ」のユダヤ人ヴァイオリニストに名前を拝借、火の鳥太陽編で#話の話 の狼を雑誌掲載時に1コマだけ出演させる。95年米国の原画展示会では#スティーヴンスピルバーグ との共同監督クレジットを拝辞する。

満天の話。ヨージックと小熊の瀟洒で慎ましいお話。二人は毎晩会ってビャクシンの小枝を炊き体と心を温め合う。小熊がサモワールで茶を淹れ二人で飲みながら他愛も無い事を語り合う。毎日満天の星が宝石の様に煌めき二人を優しく包む。二人は星を数え始める。

心配の話。ヨージックは小熊にエゾイチゴジャムを持って行こうと閃き自宅を後にする。森を抜けると霧は深く濃く立ち込めており彼の足元すら霞んで見えない。彼は濃霧の中に美しい白馬が浮かぶのを発見、馬が眠りにつけば霧の海に溺れるのではないかと心配する。

静寂の話。ヨージックは霧の中を少し探検してみようと思う。その世界には恐ろしい姿のフクロウや蛾や蝙蝠が浮かんでは消えるが穏やかなカタツムリや犬もいる。そして川の中にはカモノハシ以外に未知のものがいる。そこは背の高い草に覆われ静寂の中にも微音が響く幻想の世界。

興味の話。フクロウは彼の後を追い突然姿を現し一度鳴声をあげては姿を消す。彼はこのフクロウを異常者と思い怯えるが、好奇心が優先し探検は止まらない。大きな犬が姿を表しびっくり、犬は彼が無くしたジャムを取って来てくれて一安心する。

感謝の話。ヨージックは川に落ちて流される。このまま溺れるかなと思った時、水中から大きな魚が現れ彼を助ける。彼は魚に静かに感謝を語り掛ける。小熊にジャムをプレゼントし二人の穏やかな時間が動き出す。やはりお茶は美味しく星空は美しい。

理解の話。ヨージックや小熊は人懐っこく友好的な性格だがフクロウや蝙蝠は荒っぽく攻撃的な性格。彼等はこの世界の美しさや素晴らしさを理解出来ないし、しようともしていない。

協業の話。作品の殆どは夫人であるヤルブソバとの共同作業となる。彼女がキャラクターから背景に至る全てを描きユーリイが加工からアニメート迄行う。二つの融合した世界は夫婦の共同作業により実現する。

礼讚の話。近年、技術革新による恩恵の反面で制作者の発想の貧困が指摘される。時代の変化はあれど限定された環境の中で手法に工夫を凝らし豊かな表現をする作品に触れる事はクリエイティブの原点、我々は創意工夫や試行錯誤する者達を礼讚し、その機会を自発的且つ意識的に作る事が必要だ。

5スジ5ヌケ5ドウサ5テイジ5コノミ

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